瞑想は何のためにするのか──初心者が知っておきたい、始め方より大切なこと

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瞑想を試したことがある人に話を聞くと、「やってみたけど雑念ばかりで挫折した」という声が少なくありません。
目を閉じた途端に仕事の締め切りのこと、返していないメッセージのこと、夕食のことなどが次々と浮かんでくる。

「こんなに頭が騒がしいようでは、自分には向いていないのかもしれない」と感じて、そっと目を開けてしまう。
あるいは、「何となく良いと聞いたから始めてみたけど、何が変わっているのかよくわからない」という声もあります。

結局のところ、やってはみたけれども続かなかった──。


続かない理由はいくつか考えられますが、その一つに「何のためにやっているのかが、自分の言葉で言えない」ことがあげられます。目的が抽象的なままだと、少し面倒になったときに「まあいいか」が勝ってしまうのです。

この記事では、脳科学・認知科学の研究を参照しながら、瞑想が本当は何を変えるのかを具体的に見ていきます。「雑念が消えなかった」という経験を持つ方も、「そもそも効果がよくわからない」という方も。
ここからもう一度向き合い方を見直してみてはいかがでしょうか。

なお、マインドフルネスを職場や安全管理の観点から捉えたい方は、以下の記事も合わせてご覧ください。こちらの記事では、ヒューマンエラー研究と注意力の仕組みという切り口から、マインドフルネスの職場での機能を掘り下げています。

目次

「雑念が消えない」は失敗ではない──瞑想の本当の構造

meditation


瞑想に挫折した経験を持つ人の多くが、「雑念を消せなかった」ことを理由として挙げます。しかしこれは、瞑想の目的を根本的に誤解していることから生じる経験です。瞑想の構造を正確に知ると、「雑念が浮かんでくること」は失敗のサインではなく、むしろ瞑想が機能しているサインだということがわかります。

雑念は「消すもの」ではなく、気づきを練習するための素材

人間の脳は、特定のタスクに集中していないとき、自動的に過去の出来事を振り返ったり、未来のことを予測したりする状態に入ります。この状態は神経科学の分野で「デフォルトモードネットワーク(DMN:Default Mode Network)」と呼ばれる脳回路の活動と関連しています。目を閉じて座れば、このDMNが活動し始めるのは、脳の正常な反応です。

瞑想の目的は、このDMNの活動を無理矢理止めることではありません。呼吸や身体感覚に意識を向けていると、やがて別の考えが浮かんでくる──そのことに「気づく」。そして再び呼吸に意識を向け直す。この「浮かぶ→気づく→戻る」というサイクルを繰り返すことが、瞑想の中心的な構造です。

だとすれば、雑念は気づきを練習するための「素材」です。雑念がまったく浮かばない状態は、その練習の機会がない状態ともいえます。「雑念だらけだった」という経験は、何度もそのサイクルを繰り返せた時間だったということになります。

「気づいて戻る」という動作が積み重なると何が変わるのか

「気づいて戻る」という動作を繰り返すことは、前頭前野──注意の制御・衝動の抑制・行動の切り替えに関与する脳領域──を繰り返し使うことに似ています。この積み重ねが脳の活動パターンに影響することを示す研究が存在します。

ジャドソン・ブリューワー(Judson Brewer)博士らがイェール大学で行い、2011年にPNAS(米国科学アカデミー紀要)に発表した研究では、瞑想の経験が豊富な人と初心者を比較したとき、経験豊富な実践者ではDMNの主要な部位である後帯状皮質(PCC:Posterior Cingulate Cortex)の活動が、タスクに集中していない状態でも低く安定していることが示されました。

DMNの過剰な活動は、過去の失敗への後悔や、まだ起きていない出来事の心配を繰り返す「反芻思考」と密接に関係することが知られています。この活動が安定するとは、頭の中でループする思考に引きずられにくくなる可能性を示しています。「雑念に気づいて呼吸に戻る」という単純な動作の積み重ねが、こうした変化につながっていると研究者たちは考えています。

瞑想が変えるのは「感情が元に戻るまでの時間」


瞑想に期待することとして、「ストレスがなくなる」「怒らなくなる」というイメージを持つ方がいます。しかし研究が示すのはそれとは少し異なります。瞑想は感情そのものをなくすのではなく、感情が生じてから落ち着くまでの「回復の速さ」に影響するという見方の方が、研究の蓄積としては沿っています。

感情は起きる。ただ、そこから戻るまでの時間が少しずつ変わっていく──瞑想が変えるのは、そういう種類の変化です。

デフォルトモードネットワークと、頭の中でループする思考

日常の中で、何もしていないのに同じことが頭の中をぐるぐると回り続けた経験はありませんか。過去に言ってしまった一言、うまくいかなかった人間関係、解決策の見えない心配事──これらを繰り返し考えてしまう傾向を「反芻思考(rumination)」と呼びます。

この反芻思考を研究した心理学者スーザン・ノーレン=ホークセマ(Susan Nolen-Hoeksema)は、1990年代から複数の研究を通じて、反芻傾向が高い人ほどうつ症状が重く、また長引きやすいことを示してきました。反芻は問題を解決しようとする思考のように見えて、実際には同じ思考回路を何度も活性化させるだけで、気分の改善にはつながりにくいことが繰り返し確認されています。

こうした研究を踏まえて開発されたのが、マインドフルネスに基づく認知療法(MBCT:Mindfulness-Based Cognitive Therapy)です。ジンデル・シーガル(Zindel Segal)、マーク・ウィリアムズ(Mark Williams)、ジョン・ティーズデール(John Teasdale)の3名が2002年に刊行した書籍によって広く知られるようになったこのプログラムは、複数のランダム化比較試験において、2回以上のうつ病の再発歴がある人に対して再発リスクを有意に低減することが示されています。英国のNICE(国立医療技術評価機構)は、MBCTを再発性うつ病に対する推奨治療選択肢の一つとして位置づけています。

瞑想の実践がなぜ反芻思考の軽減につながるのか。一つの説明として提唱されているのは、「気づいて戻る」という動作を繰り返すことで、思考の流れを「観察する立場」に立てるようになるという変化です。反芻とは、思考の流れの中に引き込まれている状態です。その流れを少し外から見る視点が育つにつれて、同じ思考が浮かんでも、それに引きずられる時間が短くなっていくと考えられています。

感情の回復力──リチャード・デイビッドソンの研究

感情と脳の関係を長年研究してきたウィスコンシン大学マディソン校のリチャード・デイビッドソン(Richard Davidson)博士は、人によって感情の「回復の速さ」が異なることを研究の核心に置いてきました。

2003年、デイビッドソン博士はジョン・カバットジン博士と共同で、一般企業の従業員を対象とした研究をPsychosomatic Medicine誌に発表しました。8週間のMBSR(マインドフルネスに基づくストレス低減法)プログラムを実施した参加者の脳波を計測した結果、プログラム参加者に左側前頭前野の活動増加が見られました。左側前頭前野の活動は、ポジティブな感情傾向および不快な感情状態からの回復の速さと関連することが知られています。加えて同研究では、プログラム参加者がインフルエンザワクチン接種後に産生した抗体量が対照群と比べて多かったことも報告されており、感情状態と免疫系との関連を示す知見として注目されました。

デイビッドソン博士が著書 The Emotional Life of Your Brain(2012年、邦題「脳科学は人格を変えられるか?」)の中で繰り返し述べているのは、感情のスタイルは固定されたものではなく、経験や訓練によって変化しうるという見方です。「怒りやすい自分を変えたい」という希望は、感情そのものを消すこととしてではなく、怒りが生じてから落ち着くまでの時間を短くすることとして、脳科学的には実現可能な変化として捉えられています。

「ストレスを減らすため」以外の目的もある──自分への見方が変わるということ


瞑想の効果として語られることの多くは、「ストレスを減らす」「集中力を上げる」といった方向の内容です。しかし研究が示す瞑想の影響はそれだけにとどまらず、「自分に対する見方」にも及びます。この視点は、「何のために瞑想をするのか」という問題を考えるうえで、見落とされがちな領域です。

ポジティブな感情は「広がる」──バーバラ・フレデリクソンの研究

ノースカロライナ大学チャペルヒル校のバーバラ・フレデリクソン(Barbara Fredrickson)博士が2008年にJournal of Personality and Social Psychology誌に発表した研究では、職場の従業員を対象に「慈しみの瞑想(Loving-Kindness Meditation)」のトレーニングを行ったグループと行わなかったグループを比較しました。慈しみの瞑想とは、自分自身や他者に対して「幸せであってほしい」「苦しみから解放されてほしい」という気持ちを意図的に育てる実践です。

結果として、トレーニングを受けたグループは7週間にわたってポジティブな感情の増加が見られ、それに伴ってマインドフルな注意力、人生の目的意識、社会的なつながりの感覚、身体症状の軽減などが高まったことが示されました。フレデリクソン博士は「拡張─形成理論(broaden-and-build theory)」の提唱者としても知られており、ポジティブな感情が思考の幅を広げ、心理的・社会的・身体的な資源を積み重ねるという考え方を理論的に整理しています。

この研究が示唆するのは、瞑想の目的が「ネガティブなものを減らすこと」だけでなく、「自分の中にあるポジティブな感情を意図的に育てること」にあってもいい、ということです。

自分を責め続けることをやめることも、瞑想の目的になる

テキサス大学オースティン校のクリスティン・ネフ(Kristin Neff)博士は、自分への思いやり(self-compassion)を研究した心理学者です。彼女の研究は、自分に対して厳しく批判的な態度を取ることが心理的なウェルビーイングを損なう一方、自分に対して思いやりを持つことが心理的健康と関連することを繰り返し示しています。彼女の枠組みでは、マインドフルネスは自己への思いやりを構成する三つの要素のうちの一つとして位置づけられています(他の二つは「自己への親切さ」と「共通の人間性への認識」)。

「もっと頑張らなければ」「なぜ自分はこうなのか」という自己批判がループしているとき、瞑想の実践は、その思考を「観察する」立場を少しずつ育てます。自己批判を止めようとするのではなく、「今またそういう思考が浮かんでいる」と気づく──それだけで、思考との距離が少し変わります。「ただ自分を楽にするため」という目的は、決して消極的な理由ではありません。

「続かなかった」のは、目的が暮らしと接続されていなかったから


瞑想が続かない理由として「時間がない」「効果を感じられない」がよく挙げられます。しかしその多くは、「何のためにやっているのかが、自分の日常の中に見えていない」ことに起因しています。

たとえば、ファイナンシャルプランニングでも、似た構造があります。収入・支出・資産状況を把握することはもちろん、その前提として「この人の暮らしで何が大切か」を聞くことから始まります。毎年旅行に行きたい、10年に一度は車を買い替えたい──そうしたライフプランの軸が見えて初めて、何を優先して何を削るかが決まります。軸のないまま「とにかく節約を」と始めても、判断の基準がないため、行動は続きません。「なぜそのお金が必要なのか」「この先どう暮らしたいのか」が明確になって初めて、具体的な行動に意味が生まれるのです。

瞑想も同様です。「とにかく5分座ってみる」という取り組みが続かないのは、その5分が自分の暮らしの何に接続されているのかがわからないからです。
「頭の中でループする思考を少し落ち着かせるため」「感情の回復を少し速めるため」「自分への批判的な見方と少し距離を置くため」「これから行う作業に意識を向け直すため」──目的が自分の言葉で言えるとき、行動は暮らしの中に根付きます。

また、「続けることが目的」になってしまうと、続かなかった日に罪悪感が生まれ、それが次に始める壁になります。瞑想は修行ではありません。ある日は3分で終わった、別の日はほとんど別のことを考えたまま終わった──そのどちらも、「気づきの動作ができた時間」として受け取ることができます。

大切なのは、始める前に自分に一言確認することです。「今日はどういう状態でここに座っているのか」「何のためにこの数分を使うのか」。それが明確であるほど、短い時間でも意識の向き方が変わります。
「今日の午後、同じことをぐるぐると考え続けていたから、一度呼吸に意識を戻す」という目的で5分座るのと、「なんとなくやった方がいい気がするから」という漠然とした理由で座るのでは、同じ5分でも質が異なります。


続かないことに関して脳の仕組みについて触れた以下の記事もご参考ください。

暮らしの中に瞑想を置く──時間よりも頻度と意図


アミシ・ジャー(Amishi Jha)博士らが2007年に発表した研究では、短期集中型のマインドフルネス訓練でも、「どこに注意を向けるか」「注意をどう切り替えるか」といった注意の働きに変化が見られることが示されています。つまり、瞑想は長時間である必要はないということです。

瞑想に「特別な場所」も「長い時間」も必要ない

瞑想を行うために、特別な環境や専用の道具を用意する必要はありません。
座れる場所と数分あれば十分です。

起床後、椅子に座ったまま目を閉じる。
昼食後に、呼吸の感覚だけに意識を向ける。
就寝前に横になったまま、吸う息と吐く息を観察する。

これらはすべて、立派な瞑想です。

続けやすい場面の選び方

習慣の形成について研究したフィリッパ・ラリー(Phillippa Lally)らがロンドン大学で行い、2010年にEuropean Journal of Social Psychology誌に発表した研究では、習慣は新たな行動を既存の行動の「前後」に接続することで形成されやすいことが示されています。

瞑想に当てはめると、「コーヒーをいれた後、飲み始める前の1分間、目を閉じて呼吸を観察する」「歯磨きを終えた後、洗面台の前で1分間、呼吸だけに意識を向ける」という形が効果的です。
「新しい時間を作る」という発想より、「今ある時間の中に、意図的な数分間を差し込む」という発想の方が、長く続けやすいといえます。

瞑想は何のためにするのか

ここまで見てきたことを振り返ると、瞑想が変えるものはいくつかあります。頭の中でループする思考に気づく能力、感情が揺れてから落ち着くまでの時間、自分に対する批判的な見方との距離、ポジティブな感情を意図的に育てる力──これらはどれも「より良いパフォーマンスを出すための道具」というより、「自分の状態を自分で観察できるようになる」という変化として捉えた方が正確です。

「なぜか同じことを何度も考えてしまう」「感情的になった後、いつまでも引きずってしまう」「何をしていても別のことが気になる」「自分をうまく認められない」──こうした経験は、意志が弱いわけでも、集中力が欠けているわけでもなく、脳の構造的な性質から来ています。瞑想は、その性質を知りながらつきあっていくための一つの方法です。

学芸員として展示物と向き合う場面で実感してきたことがあります。資料を「理解しよう」「全部把握しよう」と前のめりになるほど、かえって何も残らないことがあります。それより、「何か引っかかるものはあるか」「今日の自分にはどう見えるか」という姿勢で向き合う方が、後々、気づきが深まります。
瞑想も同じで、「心を変えよう」とするより「心の動きを観察する」という姿勢の方が、続きやすく、そして実際に変化も起きやすいのではないでしょうか。

始めてみて、雑念だらけで終わっても、それで十分です。
「また別のことを考えてしまった」と気づいたその瞬間に、あなたはすでに瞑想の核心にいます。そこから呼吸に意識を戻すだけでいい。それを、ぜひ試しにやってみてください。

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