信号機の色は、交通の制度や道路環境は国ごとに異なるものの、多くの国で共通しています。
赤と黄と青(緑)。
この三色が用いられ、その配置や切り替わりの順序も、国際的に一定の原則が共有されています。
なぜ三色なのか。
二色では足りなかったのか。
四色にする選択はなかったのか。
信号機は、色を並べているのではありません。
交通の場面で必要とされる判断を、段階として整理しているのです。その整理の仕方は、鉄道信号の体系を起点として形づくられ、道路交通の制度の中で定義されてきました。
この記事では、日常に溶け込んでおりあまり意識したことのない信号機に焦点をあて、その三色という構成がどのような経緯で定着したのかを辿ってみます。
信号機は何を命じているのか

信号機は色を示しています。しかし、私たちが実際に受け取っているのは色そのものではありません。
赤であれば止まり、青であれば進み、黄であれば判断を迫られる。
すなわち信号機は、行動を切り替える合図として機能していると言えます。
この「行動の切り替え」は、曖昧な “ 呼びかけ ” ではありません。道路交通法で、それぞれの灯火に対して具体的な行動が定められています。それにより、三色には法制度という枠の中で意味が与えられています。
ここでは、私たちが普段何気なく受け入れている信号機の色について、改めて見ていきます。
赤信号が示すもの
赤信号は「止まれ」を意味します。
道路交通法では、赤色の灯火に対して車両は停止しなければならないと定められています。交差点の停止線を越えてはならず、進行は原則※認められていません。
つまり赤信号は、「停止という行動を義務づける合図」で、三色の中では、法的効果が最も強い状態にあたります。
※緊急車両などが例外にあたるため原則という表記になります。
黄信号の位置づけ
黄信号はよく「注意」として理解されていますが、法的には、原則として停止が求められます。
ここでの原則というのは、安全に停止できない場合には進行が認められるためです。
黄信号は、赤信号ほどの絶対的な停止義務ではなく、「停止に移るための判断」が求められています。つまり、進行と停止のあいだに置かれた移行段階です。
三色の中で唯一、状況判断を含む段階といえます。
青信号の意味
青信号は進行を許可するものとして理解されています。しかし、法的には「進行してよい状態」を示しているにすぎません。安全確認の義務が消えるわけではなく、他の交通主体への注意は引き続き求められます。
青だから闇雲に進行できるといった自由を与える色ではなく、あくまでも「進行が可能であることを示す合図」になります。
三色が区切る責任の段階
このように、赤・黄・青はそれぞれ異なる法的意味を持っています。
停止義務、停止への移行、進行可能。
三色は、交通における責任の強度を段階的に分けています。
信号機が三色である理由は、視覚的な区別のしやすさだけでは説明できません。まず制度として行動が三段階に整理され、その区分に対応する形で色が割り当てられています。
ここまで見てきたように、赤・黄・青は単に色が違うのではありません。止まるか、進むか、その間で判断するかという具体的な行動が、それぞれに定められています。私たちが交差点で迷わず動けるのは、この違いがあらかじめ決められているからです。
信号機は感覚に訴える装置ではなく、行動をあらかじめ分けておくための仕組みとして機能しているのです。
つまり、行動の違いが前提にあることで、色が機能しているとも言えます。では、この三つに分けるという考え方は、いつ、どのように形づくられたのでしょうか。
三色はどのように生まれたのか

信号機の三色は、道路交通の中で突然生まれたものではありません。起点は19世紀の鉄道にあります。
高速で走行する列車は、停止までに長い距離を必要とします。そのため、遠方から確実に識別できる視覚信号が不可欠でした。ここで整えられたのが、色によって行動を段階化するという発想です。この段階化が、のちに道路交通へと受け継がれていきます。
鉄道信号の成り立ち
19世紀初め(1830年代〜1840年代)、イギリス鉄道では、赤と白が用いられていました。赤は停止、白は進行です。しかし白色は街灯や星光と誤認される問題がありました。この誤認を避けるため、1840年代の後半あたりから進行を示す色は緑へ変更されます。
その後、進行から停止へ直接切り替わる構造では鉄道の制動距離の確保が難しいことが明らかになり、注意段階が追加されました。ここで1870年代以降に黄が採用され、赤・黄・緑の三段階構成が整えられていきます。
この三段階は、制動距離と判断のしやすさを確保するための運用上の要請から生まれました。
道路信号への応用と確立
1868年、ロンドンのウェストミンスター(国会議事堂付近)にガス式の道路信号が設置されました。この信号機は鉄道技師J.P.ナイトが設計し、鉄道信号を道路に応用したものです。この時はまだ赤と緑の二色でした。しかしガス漏れにより爆発事故となり、短期間で撤去されます。
その後、道路信号はすぐに普及したわけではありません。ガス式装置の事故もあり、しばらく実用化は進みませんでした。しかし20世紀に入り、自動車交通が急速に拡大すると、交差点での安全な交通制御が新たな課題となります。
この状況の中で、アメリカで電気式信号が登場します。1914年、オハイオ州クリーブランドでは赤と緑の電気信号が設置されました。これはガス式とは異なり、電気によって安定して作動する仕組みでした。
やがて、自動車の台数増加と速度の上昇により、停止と進行の二段階だけでは十分でないことが明らかになります。進行から停止へと移る間に予告段階が必要とされ、1920年頃にはデトロイトなどで黄を加えた三色信号が実用化されました。
この三段階構造は、運転者が状況を予測し、安全に減速できる時間を確保するための制度的な工夫でした。こうして赤・黄・緑の体系は、道路交通においても定着していきます。
この三段階という考え方は、19世紀後半の鉄道において、制動距離を確保するために整えられた赤・黄・緑の体系が、すでに社会の中で意味を持っていたことを表しています。道路交通における三色信号は、その意味構造を参照しつつ、自動車という新しい移動手段に合わせて再設計されたものと見ることができます。
鉄道では巨大な質量を安全に止めるために段階が必要でした。一方、道路では交差点で判断する運転者に予告時間を与える必要がありました。求められる条件は異なりますが、「停止に至るまでに一段階の猶予を設ける」という発想は共通しています。
国際的統一
第二次世界大戦後、航空機や自動車による国境を越えた移動が急速に増加しました。各国で信号や標識の形や色が異なれば、運転者は判断を誤りやすくなります。交通の安全を国際的に確保するためには、基本的な表示体系の統一が不可欠でした。
1949年のジュネーブ道路交通条約(正式名称:道路交通に関する条約)は、信号機の基本色として赤・黄・緑を採用する体系を明文化します。さらに1968年のウィーン道路交通条約では、より詳細な規定が整備され、信号の色と意味の関係が国際的な基準として確立されました。
ここで抑えておきたいのは、条約が三色信号を生み出したわけではないという点です。
赤・黄・緑の三段階構造は、すでに欧米を中心に広く運用されていました。条約はその実態を踏まえ、各国が共通に従うべき最低限の枠組みとして整理・確認したものです。
こうして三段階構造は、各国の国内制度を超えた国際的な交通秩序の基盤となります。色の意味は文化を越えて共有され、三色信号は事実上の世界標準として固定されました。
日本での導入と制度化
日本で最初に電気式信号機が設置されたのは、1930年(昭和5年)、東京・日比谷交差点です。すでにアメリカで三色方式が実用化されていた時期であり、日本は赤・黄・緑の完成形を導入しました。鉄道では三段階信号が広く用いられていたため、色の意味体系そのものは社会にとって理解しやすいものでした。
その後、都市部を中心に信号は増えていきますが、戦時中の統制や資材不足により多くが停止・撤去されます。戦後、モータリゼーションの進展とともに交通事故が社会問題となり、交差点制御の整備は急務となりました。
1960年施行の道路交通法では、信号機の灯火は「赤色・黄色・青色」と明文化されます。この「青色」は、国際的には緑色に対応します。表示色は緑であっても、法文上は青と呼ぶ。ここには日本語の色彩語の歴史が反映されています。
こうして日本は、鉄道で共有されていた三段階構造を、道路交通制度として正式に固定しました。日本は三色信号の原型を生み出した国ではありませんが、国際的に確立していた体系を受け入れ、それを道路交通法の中で明文化し、全国的な交通制度として定着させました。
鉄道で安全管理の必要性から生まれ、道路交通で実証され、国際条約で共通原則として確認され、日本法で制度として明文化される。三色信号は、この連続した歴史の積み重ねの中で揺るぎない仕組みとなりました。
なぜその色なのか ─ 生理的条件から見る三色

三色が制度として世界に広がったとしても、その色の選択そのものが適切でなければ、安全は成り立ちません。信号機は交差点のすぐ目の前で見るものではなく、数十メートル、時には百メートル以上離れた位置から瞬時に判断されます。そこでは文化や慣習よりも先に、人間の視覚の仕組みと光の物理的な性質が決定的な役割を果たします。
赤が停止に用いられた理由 ― 長波長の特性
赤色光は、可視光の中でも波長が長く、およそ620〜750ナノメートルの範囲にあります。可視光とは、人間の目で見ることのできる光の波長帯のことです。その中で赤は最も長い側に位置します。
波長が長い光は、空気中の微粒子によるレイリー散乱の影響を比較的受けにくいという性質があります。光は空気中の分子や微粒子にぶつかると散乱しますが、波長が短い光ほど散らばりやすいのです。
赤はこの散乱が比較的少ないため、減衰しにくく、遠方まで届きやすいという特徴を持ちます。そのため、霧や雨、煙といった視界条件の悪い環境でも、他の色に比べて認識しやすい傾向があります。信号機は数十メートル、場合によっては百メートル以上離れた位置から確認されます。そのため、遠くまで確実に届く光であることは、停止という最も強い指示を伝えるうえで合理的な条件でした。
赤が停止に用いられた背景には、危険を連想させる心理的印象も指摘されます。しかし制度として色を固定する際に重要だったのは、物理的に到達しやすいという特性でした。
遠距離でも視認できること。それが、停止色としての赤を支える基盤となっています。
黄が担う役割 ― 視覚感度のピーク
人間の目は、すべての色を同じ強さで感じているわけではありません。明るい環境で働く「明所視(めいしょし)」において、視感度が最も高くなるのはおよそ555ナノメートル付近、黄緑色に近い波長です。これは、同じ光の強さであっても、その付近の色がより明るく感じられることを意味します。
黄色はこの感度のピークに近い位置にあります。そのため、比較的少ない光量でも明るく見えやすく、視野に入りやすい特性を持っています。信号機は常に凝視されているわけではありません。運転者は前方の車両や歩行者、周囲の状況を同時に確認しています。その中で、短時間だけ表示される黄信号は、瞬時に気づかれる必要があります。
黄が担うのは、進行から停止への移行を知らせる役割です。判断を迫る色であり、長時間見続けるものではありません。だからこそ、「遠くまで届く」ことよりも、「一瞬で目に入る」ことが重視されます。
赤が到達距離という物理的条件を重視して選ばれたのに対し、黄色は人間の視覚感度という生理的条件に強く支えられています。
緑が進行に用いられる理由 ― 弁別と安定
緑は可視光の中間域、約495〜570ナノメートルの範囲に位置します。赤の長波長域とも、黄色の高感度域とも十分に離れており、三色を並べたときに明確な色相差が確保されます。
信号機において重要なのは、それぞれの色が“似ていない”ことです。赤と緑、黄と緑の間に十分な色相の距離があることで、遠方や悪条件下でも誤認の可能性を下げることができます。特に赤との混同を避けることは、安全設計上の基本条件でした。
緑は人間の明所視において黄色ほどではないものの、感度の高い領域に含まれ、十分な明るさを確保しやすい色でもあります。
「緑は目に優しい」といった表現がよく見られますが、これは主観的な印象に近いものです。信号色として重視されているのは、主観的な印象ではなく、他の色との明確な分離と誤認の回避です。
三色はそれぞれ異なる役割を担いながら、同時に互いを区別できる色相の位置に置かれています。緑はその中で、進行を最も安定して示せる位置にある色と言えます。
三色は同じ理由で選ばれていない
赤・黄・緑は、いずれも可視光に含まれる色ですが、選ばれた理由は同一ではありません。
赤は長波長光であり、空気中での散乱の影響を比較的受けにくく、遠方まで届きやすい特性を持ちます。停止という強い指示を確実に伝えるためには、到達距離の確保が重要でした。
黄色は、人間の明所視において視感度が高い波長域に近い位置にあります。短時間表示される移行段階の色として、瞬時に認識されやすいという条件を満たしています。
緑は赤や黄と十分に離れた波長域に位置し、三色を並べた際に明確な色相差を確保できます。誤認を避け、安定して進行を示すためには、他の二色と混同されにくいことが必要でした。
三色は単に「見やすい色」を並べた結果ではありません。到達距離、視感度、色相の分離という、それぞれ異なる視覚条件を満たす色が組み合わされています。停止・移行・進行という制度上の三段階に対し、物理的特性と生理的特性が異なる形で対応している。この構成が成立したとき、赤・黄・緑の三色は、機能的な体系として安定します。

なぜ色の順序は固定されているのか

信号機は三色を表示しています。しかし私たちが受け取っているのは「今の色」だけではありません。
青が点いていれば、やがて黄になることを知っています。
黄が点けば、次は赤だと予測します。
赤が消えれば、青に変わると理解しています。
この切り替わりの順序は、日本に限らず多くの国で共通しています。赤・黄・緑の循環は、国際的な交通制度の中で事実上の標準となっているのです。
つまり、信号機は状態を示す装置であると同時に、次の状態を予告する装置でもあります。色の切り替わりには、あらかじめ決められた流れがあり、その流れ自体が安全の前提になっています。
順序は時間の構造をつくる
青は進行可能な状態を示します。
黄はその状態がまもなく終了することを知らせます。
赤は停止を命じます。
青から黄へ、黄から赤へと移る順序が固定されていることで、行動は段階的に切り替えられます。
特に黄信号は、進行から停止へ移るための猶予として設けられています。表示時間は各国の制度に基づき、交差点の設計条件に応じて設定されています。青から直接赤へ切り替わらない構造にすることで、停止動作は時間的に分解されています。
信号は「現在の状態」だけでなく、次の段階へ移る過程まで含めて設計されています。
順序は認知の流れをつくる
青の次は必ず黄です。
黄の次は必ず赤です。
赤の次は必ず青に戻ります。
この順序が繰り返されることで、運転者は色を単独で見るのではなく、変化の連なりとして捉えるようになります。
人は繰り返される順番をひとまとまりの流れとして記憶します。そのため黄は、「停止へ向かう途中段階」として理解されます。
もし順序が一定でなければ、黄が次に何を意味するのかはその都度考え直さなければなりません。固定された順序があることで、色は流れの中の一つの位置として処理されます。
信号機は色を理解させるだけでなく、変化の流れを安定させる装置でもあります。
もし順序が固定されていなかったら
仮に順序が固定されていなかった場合を考えてみます。
青の次が必ず黄とは限らない。
場合によっては青から直接赤に変わる。
あるいは黄の次が再び青になることもある。
このような構造では、現在の色から次の状態を特定することができません。青であっても次の色が何であるかは分からず、黄が点いても停止が近いとは限らないことになります。
その結果、行動は常に「変化が起きてから」始まります。減速や停止の準備は、あらかじめ段階的に行われるのではなく、その都度やり直さなければなりません。順序が固定されていることで成立していた時間の分解も、変化を流れとして捉える認知の処理も、ここでは働きません。
そのため、急ブレーキが生じやすくなったり、また、認知負荷が増して、運転者への疲労にも繋がってしまいます。こうした状態は事故に繋がりかねないわけです。
固定された順序があることで、認知負荷も抑えつつ、次の行動を段階的に移すことができるのです。
位置の固定が果たす役割
順序が時間の構造と認知の流れをつくるものであるとすれば、位置の固定はその構造を視覚的に補強する仕組みと言えます。
縦型では上が赤、横型では日本では右側が赤。(横型の左右配置は国や地域によって差がありますが、一つの制度の中では例外なく固定されています。)
人は色だけでなく、位置でも情報を処理します。色覚に個人差がある場合や、霧や逆光などで色の識別が難しい状況でも、位置は補助的な手がかりになります。色・順序・位置がすべて固定されていることで、判断の際の前提が揺れにくくなるのです。
交通設計において重要なのは、意味を増やすことではなく、例外をつくらないことです。三色は、色相だけで機能しているのではありません。色の変わる順序と色の位置の固定が組み合わさることで、運転者の減速や停止のタイミングが揃いやすくなります。
順序と位置が固定されていることにより、車両用信号は三段階の行動を安定して支えています。
では、この三段階という構造は、すべての交通主体に必要なのでしょうか。次に、車両用信号と歩行者用信号の構成の違いを見ていきます。
歩行者用信号はなぜ二色なのか

車両用信号が三色で構成されているのに対し、歩行者用信号は原則として赤と青(緑)の二色です。この違いは、対象となる交通主体の性質の違いに由来します。
歩行者には制動距離がない
車両は速度が高く、停止するまでに距離と時間を要します。そのため、進行から停止へ移る前に予告の段階を設ける必要があります。黄信号はそのための段階です。
一方、歩行者は自らの意思で立ち止まることができます。車両のような制動距離はありません。したがって、進行と停止のあいだに独立した段階を設ける必然性は相対的に小さくなります。
点滅による移行段階
歩行者用信号では、青が点滅することで横断終了が近いことが示されます。この段階では、新たに横断を開始することはできません。すでに横断している歩行者は、速やかに渡り終えることが求められます。
車両用信号の黄が停止への移行段階であるのに対し、歩行者用の点滅は横断完了のための時間的猶予を示す段階です。見た目は二色構成ですが、制度上は「青・点滅・赤」という三段階で設計されています。
三色を用いなくても段階は確保されている。
この違いは、停止に物理的距離を要する車両と、意思によって瞬時に立ち止まることができる歩行者という主体の差に由来しています。
表示方法の違いが意味するもの
車両用信号では、移行段階を示すために独立した黄色灯火が設けられています。歩行者用信号では、新たな灯火を増やさず、青の点滅によって移行段階を示します。
ポイントは、段階の有無ではなく、情報量の扱いです。
車両は高速で移動し、複数の車線や対向車、右左折車との関係を同時に処理します。そのため、移行段階を明確に分離し、独立した色として提示する必要があります。
一方、歩行者が処理すべき情報は、横断を開始するか否かという単純な判断に集約されます。独立した黄色灯火を設けなくても、点滅という変化で十分に伝達可能なのです。
つまり、両者の違いは「段階があるかどうか」ではなく、必要とされる情報の明確さと分量にあります。信号機は、交通主体ごとに必要最小限の表示で構成されているのです。
横型と縦型は何が違うのか

信号機の色と順序は、国際条約によってほぼ世界共通に定められています。赤は停止、黄は移行、青は進行。順序も固定されています。
しかし形は統一されていません。横に並ぶものもあれば、縦に並ぶものもあります。同じ三色を使いながら、配置だけは地域によって異なります。
色と順序は厳密に固定されているのに、なぜ形には違いがあるのでしょうか。ここには、制度の統一とは別の条件が関わっています。
視界と設置条件
都市部の広い交差点では、横型が多く用いられます。運転者の視線は左右方向に広がるため、横に並んだ灯火は一目で確認しやすい構造です。複数車線を横断して見る場合にも適しています。
一方、積雪の多い地域では縦型が採用されることがあります。横型では上部に雪が積もると灯火が隠れやすくなりますが、縦型ではそれぞれの灯火が分かれているため、全体が同時に覆われにくいという利点があります。
原則は「意味を変えない」こと
形状が異なっても、色の意味と切り替わりの順序は共通しています。縦型では上から赤・黄・青、横型では右端または左端に赤を配置するなど、位置の原則が保たれています。(日本では右端に赤)
設置環境に応じて形を変えても、意味の体系は変えない。この一貫性が、交通の現場での混乱を防ぎます。
形は可変、体系は固定
信号機は、環境条件に合わせて物理的な形を変えることはあっても、三色という区分や順序を変更することはありません。制度としての体系が先にあり、その体系を確実に伝えるために形状が選ばれます。
横型と縦型の違いは、設計思想の柔軟性を示しています。意味を保ちながら、環境に適応する。その前提にあるのは、三色という区分が制度として固定されているという事実です。
なぜ「青信号」と呼ばれるのか

進行を示す灯火は緑色に見えます。例えば英語ではGreen lightと表記される通り緑信号です。
それにもかかわらず、日本では「青信号」と呼ばれています。それはなぜなのでしょうか?
「青」が担っていた広い色の範囲
日本語の色彩語は、もともと色相を細かく分ける体系ではなく、自然物の状態や印象を含んでいました。
たとえば「青葉」「青田」「青菜」という語に見られるように、現在の感覚では緑に分類される色も「青」と呼ばれてきました。ここでの「青」は、波長の違いを厳密に区別する語ではなく、若さ・未成熟・みずみずしさといった意味領域を伴う言葉でした。
つまり、「青」はただの色の名ではなく、状態を示す語でもあったのです。
法令が採用した「青色」という定義
明治期に日本に信号制度が導入された当時、日本語の色彩語では緑を含む広い意味で「青」が用いられていました。そのため、交通規則や警察令でも進行灯は「青色」と表記され、この用語が戦後の道路交通法にも引き継がれました。
日本の道路交通法では、進行を示す灯火は現在も「青色の灯火」と規定されています。表示される実際の色味は緑に近いものの、条文上は一貫して「青色」です。
法令が求めているのは、交通の現場で誤解なく機能することです。そのため、社会の中で既に共有されていた呼称がそのまま制度に組み込まれました。
もしここで「緑色の灯火」と書き換えていれば、日常語との間にズレが生じます。交通は瞬時の判断を前提とする領域です。用語が揺れること自体が混乱の種になります。
結果として、条文は歴史的に定着していた「青」という語を維持しました。
制度は、科学的な厳密さだけでなく、社会の中で安定して理解されることを優先します。そのため、「青色」という法的表現は、その安定性を選んだ結果といえます。
まとめ
信号機の三色は、単に見やすい色を並べた結果ではありません。
停止、停止への移行、進行可能。
交通の場面で求められる行動を三段階に整理し、その区分を安定して伝えるために色が割り当てられました。
この考え方は鉄道で生まれ、道路交通へと応用され、国際条約によって共通原則として確認され、日本では道路交通法の中で制度として固定されました。
さらに、視覚の生理的条件や誤認の回避、順序や位置の固定といった工夫が重なり、三色は機能的な体系として安定していきます。
重要なのは、三色が「色の選択」から始まったわけではないという点です。
先に生まれたのは、運用上の必要から「停止・移行・進行」という行動の段階を分ける発想でした。
その段階化が制度として整理され、後からそれを安定して伝える手段として色が割り当てられていきます。
信号機は、交差点での判断を迷わせないために、責任の強度を段階として切り分ける仕組みです。色は、その仕組みを確実に伝えるための手段にすぎません。
日常の中で当たり前に点灯している三色は、歴史、制度、視覚、生理、運用という複数の条件が折り重なった結果として残った構造です。だからこそ、国や文化を越えてほぼ同じ形に収束しました。
交差点で信号を見上げたとき、そこにあるのは単なる色ではありません。
判断を段階化し、迷いを減らし、事故を防ぐための設計思想です。
三色は、世界中の道路で繰り返し実証され続けている、迷いを減らすための制度設計の一つの到達点といえます。



よくある疑問(FAQ)
なぜ信号機は三色なのですか?
停止・停止への移行・進行可能という三段階の行動を制度として分けるためです。二段階では移行の時間が確保できず、四段階以上では判断が複雑になります。三色は、行動を整理するうえで最も安定した区分なのです。
なぜ黄信号が必要なのですか?
進行から停止へ安全に移るための予告時間を確保するためです。車両は制動距離を必要とするため、青から直接赤に切り替わる構造では急停止が生じやすくなります。黄はその移行を段階化する役割を担います。
なぜ日本では緑を「青」と呼ぶのですか?
日本語では古くから緑を含む広い意味で「青」が用いられてきました。信号制度が導入された当時もその用法が一般的であったため、法令上も「青色の灯火」という表記が採用され、現在まで維持されています。
なぜ色の順序は固定されているのですか?
色の切り替わりを予測可能にするためです。青の次は黄、黄の次は赤という順序が一定であることで、運転者は現在の色だけでなく次の状態を見越して行動できます。順序の固定は、時間的な猶予を制度として安定させる仕組みです。
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