目標は、立て方で変わる。立て方で変える。心理学で考える目標設計

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年が変わるとき、あるいは何かの節目を迎えるとき、「今度こそ」という気持ちが胸の中に湧いてくることがあります。ダイエットしたい、本を読む習慣をつけたい、資格を取りたい、もっと丁寧な暮らしをしたい。

その気持ち自体は本物で、決して嘘ではありません。

ただ、辛い現実で見ると、目標というものは立てるだけでは動き出しません。
どんなに強い気持ちで立てた目標でも、形の整っていない目標は、日常の中でじわじわと存在感を失っていきます。

この記事では、「目標をどう立てるか」という設計の部分に焦点を当てて、心理学や行動科学の知見をもとに考えていきます。年始に限らず、何かを始めようとするタイミングに参考にしていただけるよう、時季に縛られない内容で書いています。

なお、年末年始に気持ちが落ち着かなくなる感覚の正体については、以下の記事で詳しく書いています。あの独特のそわそわ感がどこからくるのかを知っておくと、目標を立てるタイミングの理解がより深まるかと思いますので、合わせて一読いただければ幸いです。

目次

目標を立てたくなるタイミングには、心理学的な根拠がある


年明けや誕生日、月曜日の朝など、特定のタイミングに目標を立てたくなる感覚は、気まぐれではなく、研究によって裏付けられた現象です。

ペンシルベニア大学のヘンチェン・ダイらが2014年に学術誌『Management Science』に発表した研究では、年始や誕生日、学期の始まりといった「時間の節目」の前後に、ジムの利用者が増えたり、目標に向かって本気で取り組もうとする意欲が高まったりする傾向があることが確認されています。研究者たちはこれを「フレッシュスタート効果(Fresh Start Effect)」と呼びました。

時間の節目を迎えることで、人は「過去の自分」と「これからの自分」の間に心理的な区切りを感じます。それまでの失敗や怠惰を「過去のこと」として精神的に切り離し、「新しい自分」として出発しやすくなるのです。
これは錯覚ではなく、人間の認知の構造から来るものです。

だとすれば、「どうせまた続かない」と出発の感覚を手放してしまうより、うまく活用する方が賢明です。年始や節目に目標を立てたくなる自分を信頼することは、理にかなっています。

ただし、フレッシュスタート効果はあくまで「始めやすくなる」という現象であって、「続けやすくなる」こととは別の話です。目標を形にするためには、この高揚感の受け皿として機能する、きちんとした設計が必要になります。

目標を「動ける形」に整える


目標を立てたとき、それが「動ける形」になっているかどうかは、その後の行動量に大きく影響します。「健康になりたい」「貯金を増やしたい」という言葉は目標のように聞こえますが、この状態ではまだ動けません。どこに向かって、何をすればいいのかが見えていないからです。目標を行動に変えるためには、曖昧な言葉を具体的な設計に落とし込む作業が必要です。

目標の具体性を高めるSMART(スマート)基準

「どう具体的にするか」の基準として、広く使われているのがSMART基準です。1981年にジョージ・ドランが論文の中で提唱したフレームワークで、5つの要素の頭文字をとっています。

Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(自分の価値観や生活に関連している)、Time-bound(期限がある)の5点です。

たとえば「運動する」という目標をSMART基準で整えると、「毎週火曜・木曜の夜に30分ウォーキングをして、3か月で体重を2kg落とす」のような形になります。これだけで、「今夜何をするか」が明確になります。
「健康になりたい」のままでは今夜何もできませんが、「今夜30分歩く」なら動けます。

注意したいのは、Achievable(達成可能)の部分です。目標は達成できる範囲に設定するべきですが、それは「簡単な目標を立てる」という意味ではありません。今の自分から少し背伸びした、でも現実的な範囲というのが適切な水準です。あまりにも高すぎる目標は、最初の一週間でリアリティを失い、やがて「私には無理だった」という記憶だけが残ります。

なりたい姿だけで終わらせない、WOOP(ウープ)という設計法

SMART基準で目標の形を整えたら、もう一歩踏み込んで考えることで、実現の可能性がさらに高まります。

ニューヨーク大学の心理学者ガブリエル・エッティンゲンは、長年の研究を通じて、ポジティブな未来を思い描くだけでは目標達成の可能性が高まらないことを示してきました。達成した後の喜びを想像することは気持ちいいのですが、それだけだと脳が「もう達成した気分」になり、かえって行動への動機が薄れる場合があるというのです。

エッティンゲンが開発した「WOOP」という手法は、この問題を踏まえた設計法です。
Wish(願望)、Outcome(成果)、Obstacle(障害)、Plan(計画)の4ステップで構成されています。

まずWish(願望)として、自分が達成したいことを具体的に言語化します。
次にOutcome(成果)として、それが達成されたときに自分の生活や気持ちがどう変わるかを思い描きます。
そしてObstacle(障害)として、達成を妨げる可能性がある障害を正直に考えます。「忙しくて時間がない」「疲れてやる気が出ない日がある」といった、現実的に起こりうる障害です。
最後にPlan(計画)として、「もしその障害に直面したら、こうする」という対処策を事前に決めておきます。

ポジティブな想像と障害の直視を組み合わせることで、理想だけに浮かれるわけでも、困難を前に構える必要もなく、現実的な設計が可能となります。WOOPは体重管理や学業、禁煙など複数の場面でその有効性が研究で確認されており、特に「実行意図(implementation intention)」の研究と組み合わせると効果が高まることも報告されています。

目標の「動機」を確かめてみる


目標の形を整えることと同じくらい、あるいは、それ以上に大切なのが、「なぜその目標を達成したいのか」という動機の部分です。どれだけ形が整っていても、動機が薄いと行動の燃料が尽きるのが早くなります。逆に、動機がしっかりしていれば、多少形が雑でも動き続けられることがあります。

内発的動機と外発的動機の違い

心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した「自己決定理論(Self-Determination Theory)」では、人間の動機を大きく内発的動機と外発的動機に分けて考えます。

内発的動機とは、活動そのものへの興味や楽しさ、達成感から湧いてくる動機です。「本を読むのが好きだから読む」「体を動かすと気分がいいからジョギングする」というように、活動自体が目的になっている状態です。外発的動機とは、報酬を得たい、他者に認められたい、評価を下げたくないといった外部からの刺激に基づく動機です。

どちらが優れているという話ではありません。デシとライアンの研究が一貫して示しているのは、内発的動機に基づく行動の方が、継続性と心理的な満足感が高い傾向があるということです。
「やりたいからやっている」という感覚は、「やらなければならないからやっている」という感覚より、長く続く土台になりやすいのです。

また、自己決定理論では「自律性(自分で選んでいるという感覚)」「有能感(自分はできるという感覚)」「関係性(他者とつながっているという感覚)」の三つが満たされるほど、内発的動機が育ちやすいとされています。

動機を一段深く掘り下げてみる

自分の目標がどのような動機に基づいているかを確かめる方法として、「なぜ」を数回繰り返してみることが有効です。

たとえば「英語を話せるようになりたい」という目標があったとします。
なぜ英語を話せるようになりたいのかと考えると、「昇進に有利だから」かもしれません。
さらに、なぜ昇進したいのかと掘り下げると、「収入を上げて生活に余裕を作りたいから」かもしれません。
さらに一歩進むと、「将来の不安を減らしたい」や「もっと自由に選択できる人生にしたい」という、より個人的なものが出てくることがあります。

表面の目標だけを見ていると「英語の勉強」という行動になりますが、動機を掘り下げると「将来への安心感」や「自分の人生を自分で選びたい」という、より自分にとって切実なものと結びついていることがわかります。この結びつきを意識しているかどうかで、やる気の質が変わってきます。

逆に、掘り下げてみたら「なんとなく、そうしなければならない気がしていただけ」という動機だったというケースもあります。それはそれで、正直な発見です。
どちらの場合も、自分の目標と動機の関係を知っておくことは、設計の精度を上げることに直結します。

目標を分野別に広げると、自分の暮らし全体が見えてくる

vision board


一つの目標を丁寧に設計することは大切ですが、目標を複数の分野に広げて整理することで、自分がどんな暮らしを目指しているかの全体像が見えてきます。点ではなく、面で自分を捉え直す作業です。

目標を立てる際の分野の例として、仕事やキャリア、健康や身体、人間関係、お金や暮らしの安定、学びやスキル、趣味や自己表現などが挙げられます。すべての分野に目標を立てる必要はありません。ただ、いくつかの分野を眺めてみると、「ここは充実しているが、この分野はずっと後回しにしている」という偏りが見えてくることがあります。そのアンバランスを知るだけで、今何に重点を置くべきかが自然に定まってきます。

この俯瞰の作業に有効なのが、視覚的なツールです。
ビジョンボードは、達成したいことや目指す暮らしのイメージを写真や言葉で一枚の紙にまとめたものです。「何かを達成するための計画表」というより、「自分が何を大切にしているかを可視化する作業」として機能します。
マンダラチャートは、中心に大きな目標を置き、その周囲に関連する行動や要素を展開していく構造で、目標から行動へのつながりを整理するのに適しています。
書き出すことで、頭の中で漠然としていたものが輪郭を持ち始めます。

複数の目標を持つときに一点だけ気をつけたいのは、目標同士の相性です。「毎日2時間勉強する」と「毎日1時間運動する」を同時に立てた場合、生活のリズムによってはどちらも中途半端になる可能性があります。目標の数と自分の生活容量のバランスを確認しておくことも、設計の一部です。

目標を立てたあと、どう付き合っていくか


目標設定というと、立てた瞬間が山場のように感じてしまいますが、実際には立てた後の付き合い方のほうが、達成できるかどうかに大きく影響します。
設計の精度と同じくらい、継続の仕組みを考えておくことが重要です。

定期的に見直す設計を組み込む

心理学者のチャールズ・カーヴァーとマイケル・シャイアーが提唱したセルフレギュレーション理論では、目標に向かって進むためには「現在の状態」と「目標とのギャップ」を定期的に確認するフィードバックループが重要だと述べられています。

このフィードバックループを意識的に設計するというのが、「定期的な見直し」の意味です。月に一度でも、2週間に一度でも、進み具合を確認する時間を決めておくことで、ズレが大きくなる前に修正できます。

見直しの際に確認したいのは、進み具合だけではありません。目標そのものが今の自分に合っているかどうかも見ておく価値があります。目標を立てた時点と3か月後では、自分の状況や優先順位が変わっていることもあります。
立てた目標を修正することは、諦めることではなく、現実に合わせて設計を更新することです。完成形をいきなり目指すより、試しながら整えていく方が、目標との関係は長続きします。

できなかった日の扱い方

目標に向かって進んでいると、必ず「できなかった日」が来ます。このときの自分の反応が、その後の継続を大きく左右します。

研究者のジャネット・ポリヴィらは、一度崩れると全部崩れてしまうパターンを「what-the-hell effect」として研究しています。これは、「やけくそ効果」と訳すのが最も自然でしょうか。ダイエット中に一度食べすぎると「もういいや、今日はもう何でも食べよう」となってしまう現象がその典型例です。「一回できなかったら全部台無し」という捉え方が、連鎖的な崩壊を引き起こします。

できなかった日の後に大切なのは、「明日また続ける」という選択です。完璧にできる日だけが積み上げになるわけではなく、できなかった日の翌日に再開できるかどうかも、長期的な積み上げを左右します。

目標と自分の関係を、「守れているか守れていないか」の二択で見るのではなく、「全体を通してどの方向に向かっているか」という視点で見ることが、長く続けるための土台になります。目標を立てた後の具体的な習慣の作り方については、以下の記事をあわせて読んでいただけると、この先の設計がより整うと思います。

目標を立てることは、自分を知ることでもある

ここまで、心理学や行動科学の知見をもとに、マネジメントのフレームワークにも触れて、目標を形にするためのいくつかの考え方を見てきました。SMART基準で具体的な形に整えること、WOOPで障害を直視したうえで計画を立てること、自己決定理論で動機を確かめること、分野別に俯瞰して暮らし全体を捉えること、そして定期的に見直す仕組みを持つこと。
これらは、いずれも「目標を立てる」という行為を、より精度の高いものにするための道具です。

ただ、ここで一つ立ち止まって考えてほしいことがあります。

目標を立てるという行為は、「何を達成するか」を決めることであると同時に、「今の自分は何を大切にしているのか」を確認する作業でもあります。WOOPで障害を直視したとき、自己決定理論で動機を掘り下げたとき、ビジョンボードに自分の言葉を書き出したとき、そこに現れるのは達成計画だけではありません。
自分の価値観、本音、そして「こういう自分でありたい」という静かな意志です。

何度も目標を立てては途中で終わってきた、という経験がある方は、もしかしたら「立て方」よりも先に、「何のために立てるのか」という部分が曖昧なままだったのかもしれません。
形を整える前に、動機を確かめる。動機を確かめる前に、自分が本当に何を望んでいるかに正直になる。その順番が、実は大切だったりします。

今年立てた目標でも、以前から温めてきた目標でも、一度立ち止まって「これは本当に自分がそうしたいことなのか」と自分に向き合ってみることは、決して遠回りではありません。そこに正直になれたとき、目標は義務ではなく、自身の意思の表明へとなります。

設計を丁寧にするほど、目標は動き出しやすくなります。
そしてそれは同時に、自分自身への理解を少しずつ深めることにもつながっていきます。
今の自分が何を望んでいるのかを、目標という形を借りて確かめていく。そのプロセス自体に、意味があると思っています。

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