会社で働いていた頃、スタンディングデスクを日常的に使っていました。
眠くならないので集中できるし、座る・立つの切り替えがない分、動きやすい。そして何より、「立っているほうが身体には負荷がかかっているはずだから、消費カロリーも多いだろう。これはトレーニングにもなっているかも」という、根拠のない確信を持ちながらポジティブに使っていた記憶があります。
その感覚が本当に正しかったのかどうか、当時はきちんと調べたことがありませんでした。
会社を離れてからも、その名残で家にスタンディングデスクを取り入れて、今はデスクの下にトレッドミルを置いて歩きながら作業する日もあります。そうした体験を積み重ねてきた今、改めてあの体感には根拠があったのかを確かめてみます。
会社で初めて使ったとき

私がスタンディングデスクを使うようになったきっかけは、仕事中の著しい眠気からでした。
それまではずっと、エナジードリンクやコーヒーを積み増しし、糖分やカフェインで脳に鞭打って仕事をこなしていたのですが、ある日、それが効かなくなってしまったのです。本当は徐々に効かなくなっていっている感覚はあったのですが、一線を超えてしまったのでしょうね。
そして、これ以上の糖分やカフェインの摂取量を増やすのもさすがに良くないと体が悟っていたために、眠気を解消する方法を探っておりましたところ、運命の出会いを果たします。
職場の片隅で、誰も使っていないスタンディングデスクがふと視界に入り、「そうだ!立って仕事をすれば良いのでは!?」と。
そうして、ものは試しでスタンディングデスクで仕事をするようになりました。
使ってみて、まずは目論見通り。眠くなりません。
デスクワーク中心の仕事をしていると、どうしても、特に昼食後なんかはじわじわと眠気が入り込んでくることがありますが、立って作業しているときは、それが明らかにありませんでした。集中力が上がったというよりも、眠気が入り込んでくる隙がない、という感覚に近かったです。
また、当時の私の仕事は座って完結する仕事ばかりではありませんでした。現場トラブルや来客への対応、部署をまたいだ打ち合わせなどなど。そのたびに動いて、資料を持ち、次の作業へ移る。そういうリズムの中で、かえってスタンディングデスクはフットワークの軽さを底上げしたような印象があります。
座った状態から動こうとすると、立ち上がって、椅子を整える、といった動作が入ります。それが、立ったままなら、そのまま動けます。書類を取りに行く、隣の人に声をかける、別のモニターの前に移動する。ひとつひとつは些細なことですが、積み重なると「なんか楽」という感覚が体感としてはっきり感じるようになりました。恐らく、座る・立つの動作で発生するちょっとしたスクワットみたいな動きがなかったことが大きいのかもしれません。
最初はこの、「すぐ動ける」という感覚はとても心地よかったです。
そしてもうひとつ。
明確な根拠はなかったのですが、「立っている状態は運動になる」という情報を鵜呑みにしながら、なんとなく前向きな気持ちで使い続けていました。1日中ずっと立ち続けていると、足腰に結構な負荷がかかっている感覚があったので、これは相当なエネルギーを消費しているだろう、と思っていたのです。
ただ、この思い込みが正しかったのかどうかは、後になって確かめることになります。
「立つ=トレーニング」は本当だったのか

会社を離れてから、ふとその思い込みを確かめたくなりました。
立っているだけで本当に消費カロリーが増えているのか?
ただ、調べてみて数字を見てみると、率直に言って「思っていたよりずっと小さかった」というのが結論です。
Harvard Health(ハーバード大学医学部の健康情報メディア)が参照しているデータによると、立っているときのエネルギー消費量は座っているときと比べて、1時間あたりおよそ8〜15kcalの差にとどまります。3時間立ち続けても、追加で消費できるのはにんじん1本分にも満たない程度です。
この差が生まれる理由は、身体の仕組みから見ると非常に理にかなっています。
私たちは立っているとき、重力に抗うために下半身の筋肉を常に使い続けています。一見すると何もしていないようですが、身体の中ではずっとエネルギーが消費されているのです。
このような日常の微細な動きによるエネルギー消費は、「NEAT(非運動性活動熱産生)」と呼ばれています。日々の小さな積み重ねが代謝に与える影響として、近年の運動科学でも非常に注目されている概念です。
ですが、絶対値として見たとき、その差は「トレーニング」と表現するにはとても弱いことが言えます。会社で感じていたあの達成感は、カロリー消費という点では少し過信でした。
それでも眠くならない体感は正しかった

カロリー消費の差は思ったよりも小さかったものの、「眠くならない」という感覚には、ちゃんとした生理的な理由があることがわかりました。
血流による効果
実は身体は、先ほどの姿勢を保つ筋肉の働きだけでなく、立ち上がることで「血圧や血流」も自動的にコントロールしています。
このとき、脳への血液をしっかりと届けるために、自律神経の「交感神経系」が適度に働きます。この交感神経の活動が頭をシャキッとさせ、座っているときよりも眠気が起きにくい状態を作ってくれるのです。
そもそも眠くなる原因のひとつに、長時間同じ姿勢でいることによる「血流の停滞」があります。特に座りっぱなしの姿勢では、下半身の筋肉がほとんど使われないため、血液が足元に溜まりやすくなってしまいます。
一方、立つことで下半身の筋肉が程よく動き、血液を心臓へと押し戻す「筋ポンプ」の役割を果たします。これにより全身の巡りが良くなり、脳への酸素や栄養の供給も安定しやすくなります。
ここで「立ちっぱなしだと筋ポンプは働かないのでは?」と思われた方もいるかもしれません。確かに、彫刻のように1ミリも動かずに立っていると、筋肉が伸び縮みしないためポンプは働きません。しかし、私たちが立って作業するときは、無意識に重心を左右に揺らしたり、少し足の位置を変えたりと、微細に足を動かしています。この「じっと動かないわけではない状態」こそがポイントです。ほんの少しの姿勢の変化や微細な筋肉の収縮が、滞りがちな血液をしっかりと心臓へ押し戻してくれるのです。
視覚情報の変化による効果
さらに、「目から入る情報の変化」も眠気を覚ます大きな変化です。
立ち上がると目線の位置が数十センチ高くなり、視界がパッと広がります。このとき、脳の覚醒スイッチである「網様体賦活系(もうようたいふかつけい)」という神経系が刺激され、脳全体の活動が活発になります。座って狭いPCやモニターの画面をずっと見つめているときよりも、立つことで空間の広がりや新しい視覚情報が脳に飛び込んでくるため、自然と眠気が吹き飛ぶのです。
また、視野が広がる分、周囲への意識が保たれやすい状態でもあります。会社という、常に周囲の状況を把握しながら動く必要がある環境では、この点も「動きやすい」「集中が続く」という感覚の一部をつくっていたのかもしれません。
こういった理由から、職場での「眠くならない」という体感は、決して気のせいではありませんでした。立つという姿勢そのものが持つ、立派な生理作用だったのです。私たちの身体は、思った以上に正直に反応していたわけですね。
血糖値への影響──これは意外だった

カロリー消費の数字には少し拍子抜けしましたが、眠気への効果はしっかりとありました。また、調べているなかで、さらに興味深い事実が出てきました。
イギリスのチェスター大学のJohn Buckleyらが2014年に発表した研究(Occupational and Environmental Medicine誌掲載)では、通常のオフィスワーカーを対象に、午後の時間帯を「座って作業した日」と「立って作業した日」で比較しています。その結果、昼食後の血糖値の上昇幅が、立っていた日には43%抑制されていたという結果が示されました。
なぜそうなるのかというと、立っている状態では下半身の筋肉が継続的に使われており、その筋肉が血液中のグルコース(糖)を少しずつ消費し続けるためと考えられています。激しい運動をしているわけではなくても、筋肉が「使われている状態」であること自体が、食後の血糖値スパイクを緩やかにする方向に働くようです。
ただし、この研究は参加者10名の非ランダム化試験であるため、結果をそのまま大きく信用するのは慎重であるべきです。「立って作業することが食後の血糖コントロールに関与する可能性がある」という段階として受け取るのが適切でしょう。
それでも、この視点は「眠くなりにくい」という体感と自然につながります。
食後に血糖値が急激に上がった後、急降下するとき、強い眠気や倦怠感が起きやすくなります。立って作業することで血糖の上昇が緩やかになるなら、あの体感は覚醒レベルの維持という経路だけでなく、血糖値の安定という経路からも同時に支えられていた可能性があります。
複数の仕組みが重なって、ひとつの体感をつくっていたのかもしれません。
家でも使い始めた理由

会社を辞めてから、しばらくは普通の椅子と机で作業していました。特別に困ることはなかったのですが、やはり座っていると眠くなるわけです。そこで、ふと、あの「眠くならない感覚」は家でも再現しないともったいないのでは?と思ってしまったわけです。それで、自宅にもスタンディングデスクを取り入れることにしました。
選んだのは折りたたみ式のスタンディングデスクです。スタンディングデスクは昇降機能付きのものが多い印象ですが、「昇降機能付きは高すぎる!」し、「場所を取りすぎる!」ということで、断念しました。
昇降機能がない、となると私の身長168cmでちょうどいい高さというのが、だいたい110cmくらいだったので、もうほぼ選択肢は限られていました。
私が買ったのはこちらです。↓↓↓
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価格もスタンディングデスクとしては控えめですし、正直なところ期待せずに購入したのですが、実際に届いて、組み立てて使ってみると思いのほかしっかりした作りで、想像以上にモノが良かったです。
折りたたんで移動もできるし、見た目もシンプルで、部屋にも馴染む。お値段が高いスタンディングデスクにはないオシャレさがあって気に入っています。良い買い物でした。
そして、家での使い方は、会社のときとは少し変わりました。デスクの下にトレッドミルを置いて、歩きながら作業することが増えてきたのです。
トレッドミルはこちらを買いました。これもね、お値段控えめなのに悪くないんですよ。
ただ、フローリングに直接だと、床が傷ついたり音が響いたりするので、保護マットも合わせて買ってます。
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歩きながら作業する効果

立つだけではカロリー差が小さいとわかった今、「では歩きながら作業するとどうなのか」という話になります。こちらは印象がかなり変わります。歩くことの効果は、カロリーと認知の両面から見ることができます。どちらも立っているだけとは明確に異なる作用があり、それぞれに意味があると感じています。
歩くことでカロリー消費はどう変わるか
世界トップクラスの知名度を誇る米国の医療機関「メイヨークリニック(Mayo Clinic)」のデータによると、立っているときの消費カロリーは1時間あたり約95kcal(座っているときは約80kcal)であるのに対し、時速1.6〜4km程度のゆっくりとしたペースで歩くと、1時間あたり170〜240kcal程度になるとされています。
立っているだけとの差は明確で、歩くことで消費カロリーは実質的に2〜3倍近くに増えます。デスクワーク中に歩く速度は、運動として激しいものではありません。それでも、数時間の作業時間の中で積み重なる消費カロリーの差は、立っているだけとは大きく変わってきます。
「立つ=トレーニング」という思い込みは少し外れていましたが、「歩きながら立つ=トレーニング」と言えば、これは相応の根拠がある話になってきます。
また、歩くことで下半身の筋肉が活発に使われるため、血糖値への影響も立っているだけより大きくなると考えられています。前述したBuckley らの研究でも、立つよりさらに積極的に身体を動かすことで代謝への作用が高まる可能性が示唆されています。
認知機能・集中力への影響
歩くことには、カロリー以外の観点でも独自の効果があります。軽い有酸素運動は脳への血流を高め、注意力や実行機能(タスクの計画・切り替えを担う認知的な能力)に良い影響を与えることが、複数の研究で示されています。これは「運動が脳に良い」という話と同じ経路で、歩くという行為が脳を活性化させる方向に働くためです。
ただし、歩きながらの作業には向き・不向きがあります。資料をざっと読む、アイデアを頭の中で温める、メールを確認するといった作業は歩きながらでも問題なくこなせます。一方で、複雑な文章を構成する、細かい数字を扱う、といった場面では、歩くことで注意が分散してしまうこともあります。
私自身、資料を読む時間や考えを整理したいときは歩きながら、文章を実際に書くときや細かい作業は止まって立ったまま、あるいは座って、という使い分けをするようになりました。歩くか・立つか・座るかを、作業の性質に応じて自然に切り替えるのが、今のところ自分には合っています。

体感は間違っていなかった
「立っているだけでトレーニングになっているかも」という思い込みは、カロリーという観点ではだいぶ過信でした。
差はあった。でも、思っていたより小さかった。
一方で、眠くなりにくいこと、食後の血糖値の上昇が緩やかになる可能性があること、歩きながらの作業が代謝にも認知にも作用すること。これらは体感していたことにそれぞれ理由があった、ということを示しています。
「なんとなく良い気がする」で続けてきたことが、調べてみると「やっぱり根拠があった」に変わる。この過程が、私はけっこう好きです。完璧な知識がなくても、身体が感じていることをきっかけに行動することには、それなりの意味があると思っています。
スタンディングデスクが誰にでも向いているとは言いません。仕事の内容によっては、腰を落ち着けて座ったほうが明らかにはかどる場面もあります。それでも、「なんとなく眠くなりにくい」「なんとなく動きやすい」という感覚があるなら、それはおそらく気のせいではありません。
身体は、言葉にする前に何かを知っていることがあります。その感覚を大切にしながら、自分に合った使い方を探してみるのも悪くないかもしれません。


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