オンライン秘書に「向いている」のはどんな人か──適性を科学的に考える

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在宅でできる仕事を探していると、「オンライン秘書」という選択肢に目が留まることがあります。調べてみると、「サポートが好きな人に向いている」「気配りができる人に向いている」「細かい作業が苦にならない人に向いている」という言葉が並んでいます。読み進めるうちに、「これは自分のことかもしれない」と感じる方もいるでしょう。

ただ、その感覚の根拠を少し掘り下げてみると、「なんとなくそう思う」という以上の根拠が見当たらないことに気づくことがあります。「サポートが好き」とはどういうことか。「気配りができる」とはどの程度のことを指しているのか。「向いている」という言葉は、具体的に何を意味しているのか。

この記事では、心理学の特性論と動機づけ理論を手がかりに、オンライン秘書という仕事との適性を科学的な角度から見ていきます。「向いているかどうかを感覚で判断する」のではなく、自分なりの根拠を持って考えるための素材を提供できればと思っています。

私はかつて、製薬会社で社長秘書として働いていた時期があります。また、司書として情報管理に、学芸員として展示の設計に携わり、現在はオンライン秘書として実際に仕事を受けています。実務の経験を踏まえながら、「適性」という言葉の輪郭をできるだけ具体的に見ていきたいと思います。

目次

「向いていそう」という直感は、どこから来るのか


「サポートが好き」「人の役に立つことが好き」という自己認識は、多くの人が持っています。でも、その認識がどこまで正確なのかは、慎重に見極める必要があります。

心理学には「自己奉仕バイアス(self-serving bias)」という概念があります。人は自分に都合のよい情報を積極的に取り込み、そうでない情報を無意識に軽視する傾向があります。この傾向から、「自分はサポートが得意だ」という認識も例外ではありません。
過去に誰かに感謝された経験や、うまくいったサポートの記憶は印象に残りやすいものです。一方で、うまくいかなかった場面は意外にも記憶から薄れやすいのです。その非対称が積み重なることで、自分の得意なことへの自己評価は、実際よりも少し高くなりがちになります。

また、社会心理学者のティモシー・ウィルソン(Timothy D. Wilson)らの研究では、人は自分の心理状態や行動の動機を正確に把握することが難しく、内省によって得られた自己像は必ずしも実際の行動パターンを反映しないことが示されています。
つまり、「自分はこういう人間だ」という感覚は、実際の行動を必ずしも正確に反映しているわけではありません。
たとえば「自分は人の話をよく聞ける」と思っていても、実際にクライアントと向き合ったとき、言葉の表面は受け取れていても、その背後にある意図までは拾えていなかった、ということが起こりえたりします。

さらに、「向いていそう」という直感には、別の要因も混じり込んでいることがあります。
「在宅で働きたい」「自分のペースで動きたい」という働き方への希望が、「向いているはず」という認識に転換されていることです。働き方への希望と、仕事への適性は、別の話です。
この二つが混線したまま動き始めると、現実との間にギャップが生じやすくなります。

そのため、「向いていそう」という直感は、出発点としては有効ですが、それだけを根拠に「向いている」と判断することには少し無理が生じてしまいます。次からのセクションでは、特性と動機という二つの角度から、適性についてもう少し丁寧に見ていきます。

特性から考える──心理学が示す適性の輪郭

「どんな人が向いているか」を考えるとき、心理学では「特性(trait)」という概念が使われます。特性とは、状況を超えて比較的安定して現れる行動・思考・感情のパターンです。生まれつきの固定されたものではなく、経験によって形成・変化していくものですが、ある程度の一貫性を持っています。

そして、現代の性格心理学で広く用いられているビッグファイブ理論(Big Five personality traits)は、人の性格を「開放性・誠実性・外向性・協調性・神経症傾向」の五つの次元で捉えます。コスタとマクレー(Costa & McCrae, 1992)によって体系化されたこのモデルは、文化を超えた再現性の高さから、現在も性格研究の基盤として広く使われています。

オンライン秘書という仕事と照らし合わせたとき、特に関わりが深いのは「協調性」と「開放性」の二つです。ただし、どちらも「高ければ向いている」という単純な話ではありません。特性の高低よりも、その特性がどんな文脈でどんな形で現れるかの方が重要であることを、先に述べておきます。

他者への関心の向け方

ビッグファイブにおける「協調性(agreeableness)」は、他者への共感的な関心、協力的な態度、人間関係における柔軟さを反映する次元です。この得点が高い人は、他者のニーズに敏感で、衝突を避けながら関係を維持しようとする傾向があります。

オンライン秘書という仕事では、クライアントの意図を汲み取りながら動くことが求められます。その意味で、協調性の高さは一定の強みになりえます。ただし、「協調性が高い」ことと「サポートが得意」であることは、同じではありません。

協調性の高さは、衝突を回避する方向に働くこともあります。クライアントとの間で認識のずれが生じたとき、それを指摘せずに自分が合わせてしまう。こちらから提案すべき場面で、相手の反応を気にして黙ってしまう。こうした動き方は、短期的には摩擦を生まないかもしれませんが、長期的にはクライアントの仕事の質を下げることにつながりかねません。

サポートの仕事に求められるのは、単純な「相手に合わせる力」ではなく、「相手のために必要なことを届ける力」です。他者への関心が、相手を不快にさせたくないという回避的な動機から来ているのか、相手の仕事をより良くしたいという積極的な関心から来ているのかで、実際の仕事の質は大きく変わります。

私自身、社長秘書として働いていた経験の中で、「相手が求めていることを届けるために、あえて確認する」「あえて指摘する」という場面が何度もありました。黙って合わせることが必ずしもサポートではない、という感覚は、実務を通じて育っていったものです。協調性の高さを「相手に合わせること」として使うのか、「相手のために動くこと」として使うのかの違いは、特性の使い方の話でもあります。

曖昧さへの耐性

ビッグファイブの「開放性(openness to experience)」は、新しい経験や曖昧な状況への受容性、知的好奇心の強さを反映します。この特性と関連して、心理学では「曖昧さへの耐性(tolerance of ambiguity)」という概念も長く研究されてきました。フレンケル=ブランズウィック(Else Frenkel-Brunswik, 1949)によって提唱されたこの概念は、白黒つかない状況や不確実な情報に対して、どれだけ不安を感じずに対処できるかを示すものです。

オンライン秘書という仕事には、構造的な曖昧さが伴います。マニュアルがない、正解が明示されない、どこまでやるべきかが言語化されていない、クライアントによって求めるものが大きく異なる。こうした状況は、曖昧さへの耐性が低い人にとっては、継続的なストレス源になりえます。逆に、曖昧さをある程度受け入れながら動ける人にとっては、自分なりの判断を育てる余地として機能します。

また、新しいツールへの適応や、クライアントの業種・業務スタイルへの適応も、この「開放性」と深く関わっています。毎回同じ手順で進められる仕事よりも、状況に応じて動き方を変えていく仕事のほうが多いのがオンライン秘書の実態です。「決まった手順を正確にこなすことが得意」な人と、「状況を読みながら柔軟に動くことが得意」な人では、この仕事との相性が変わってきます。

私が現在オンライン秘書として仕事を受けている中でも、「これで合っているのか」という感覚は常にあります。その感覚と付き合いながら動き続けることが、この仕事の日常です。曖昧さを「解消すべき問題」として捉えるか、「付き合っていくもの」として捉えるかは、適性を考えるうえで一つの手がかりになるかもしれません。

動機から考える──「なぜやりたいのか」が「続くかどうか」を左右する


特性と並んで、適性を考えるうえで重要なのが「動機」の質です。何をしたいかという内容だけでなく、なぜそれをしたいのかという動機の出所が、仕事として続けられるかどうかを大きく左右します。

心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアン(Edward Deci & Richard Ryan)が提唱した「自己決定理論(Self-Determination Theory)」は、人間の動機づけを「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」に分けて捉えます。外発的動機づけとは、報酬・評価・他者の承認など、外部からの働きかけによって生まれる動機です。内発的動機づけとは、活動そのものへの興味・関心・楽しさから生まれる動機で、外部からの強化がなくても持続しやすい性質を持っています。

この理論において重要なのは、外発的動機づけが悪いということではなく、動機の「質」が行動の持続性や充実感に影響するという点です。同じ「オンライン秘書をやりたい」という気持ちでも、その動機の出所によって、仕事の続き方や消耗の仕方が変わってきます。

「役に立ちたい」という動機の中身を分ける

「誰かの役に立ちたい」という動機は、オンライン秘書を志望する人に広く見られます。ただ、この一言の中には、実は異なる性質の動機が混在していることがあります。

一つは、「役に立てている自分でいたい」という動機です。他者から感謝されること、必要とされていると感じること、承認されることへの欲求が根底にあります。自己決定理論の文脈では、これは外発的動機づけに近いものです。承認という外部からの報酬に依存しているため、感謝が得られないとき、評価が見えないときに、動機が揺らぎやすくなります。

もう一つは、「相手の仕事がうまくいくこと、相手の負担が減ることそのものへの関心」から来る動機です。これは相手の状況への純粋な関心から生まれるもので、内発的動機づけに近い性質を持っています。この動機は、感謝の言葉がなくても、成果が見えにくくても、比較的安定して持続します。

どちらの動機が強いかは、優劣の問題ではありません。ただ、前者が強い場合、サポートの仕事が持つ「成果が見えにくい」という構造的特性との間に、摩擦が生じやすくなります。うまくいった仕事ほど透明になる、起きなかったことは評価されにくい、という性質は、承認を求める動機では消耗の源になってしまいます。自分の動機がどちらに近いかを知っておくことは、消耗の予兆に気づくための手がかりになります。

動機の質が、消耗の仕方を変える

デシとライアンの研究では、内発的動機づけに基づいて行動している人は、外発的動機づけに基づいている人に比べて、困難な状況でも継続しやすく、燃え尽き症候群(バーンアウト)を経験しにくいことが示されています。

バーンアウト研究の第一人者であるクリスティーナ・マスラック(Christina Maslach)は、バーンアウトを「情緒的消耗感・脱人格化・個人的達成感の低下」の三次元で捉えています。サポートの仕事に特有の「成果が見えにくい」という構造は、個人的達成感の低下に直結しやすい側面を持っています。この状態が続くと、どれだけ仕事そのものが好きであっても、消耗感が積み重なっていきます。

自分の動機の出所を知ることは、消耗の予防に直接つながるわけではありません。ですが、「なぜ自分はこの仕事をしたいのか」を少し深く見ておくことは、仕事の中で消耗を感じたときに、その原因をより正確に見つける手がかりになります。動機の質を知っておくことは、長く働くための地図の一部になります。

「向いている」は、始める前にわかるものではないのかもしれない

ここまで、特性と動機という二つの角度から適性を見てきました。では、これらを踏まえて「自分は向いているかどうか」が判断できるかというと、実はそれほど単純ではありません。
記事のタイトルに「オンライン秘書に「向いている」のはどんな人か」と書いておきながら結論がなくて申し訳ないのですが⋯。

心理学者のキャロル・ドゥエック(Carol Dweck)は、能力や特性を「固定されたもの」として捉える「固定マインドセット(fixed mindset)」と、経験や努力によって変化しうるものとして捉える「成長マインドセット(growth mindset)」という概念を提唱しています。
「自分は向いているか向いていないか」を固定された特性として判断しようとすること自体が、固定マインドセット的な発想に近いものです。

適性とは、事前に確認できる静的なものではなく、実際に動きながら形成されていく動的なものでもあります。「文脈を受け取る力」も「曖昧さへの耐性」も、ある程度は経験を通じて育てられるものです。始める前に「向いているかどうか」が完全にわかる人はほとんどいないし、始めてみて初めてわかることの方が多い、というのが正直なところです。

ただ、だからといって「やってみればわかる」だけで終わるのはもったいない。
この記事でお伝えしたかったのは、「なんとなく向いていそう」という直感を、少し解像度を上げた状態で持ち直すことの重要性です。他者への関心の向き方、曖昧さとの付き合い方、役に立ちたいという動機の中身。これらに意識を向けておくことは、始めてからの動き方にも、続けるかどうかの判断にも、じわじわと影響してきます。

私自身、社長秘書として働いた経験があっても、オンライン秘書として動き始めてみると、また違った難しさに出会いました。経験があることと、適性があることは、重なっている部分もあれば、ずれている部分もあります。「自分はこの仕事に向いているのだろうか」という感覚は、実際に動きながらも持ち続けることになるものです。

その感覚を持ちながらも動き続けることが、適性を育てることでもあるのかもしれません。向いているかどうかを確かめるために動くのではなく、動きながら向き合い方を育てていく。

そういう構えで始めてみることも、一つの選択肢ではないでしょうか。

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