資格試験の勉強法として、いまや動画学習はすっかり定番となりました。
通勤中やちょっとしたスキマ時間にスマホで視聴できる手軽さは、忙しい社会人にとって心強い味方です。
しかし一方で、「ちゃんと観ているはずなのに、なぜか覚えていない」「何周かしたのに、本番が不安…」と感じる人が多いのも事実。
それは、動画という形式が持つ“特性”に理由があるのかもしれません。
本記事では、動画講義の効果に関する研究情報をもとに、動画学習で成果を出すための考え方と、日々の勉強に取り入れやすい工夫を5つの視点から紹介します。
動画学習が、資格勉強の主流になった背景

資格取得の勉強といえば、いまや動画講義が定番の学習スタイルになりました。
スマホやタブレットを使えば、時間や場所にとらわれずに学べる。通勤の合間や夜のひととき、日常のすき間時間がそのまま「学びの時間」に変わる──そんな環境が、多くの人にとって当たり前になりつつあります。
とはいえ、「動画なら効率的に学べるはず」と思っていたのに、なぜか思うように成果が出ない。そんな声も少なくありません。
ここではまず、動画学習がこれほど普及した背景を整理しながら、その前提を一度立ち止まって見直してみましょう。
学びの柔軟性が、日常に“勉強の居場所”をつくった
動画学習が支持されている最大の理由は、その柔軟性です。
決まった曜日に教室へ通う必要はなく、自分のスケジュールやコンディションに合わせて「今日は少しだけ」「集中できる週末にまとめて」と自由に設計できます。
こうしたスタイルは、特に忙しい社会人や子育て中の方にとって大きな支えとなっています。
学習サービスの進化が「動画中心」を後押しした
オンライン講座の提供側も、より使いやすい環境づくりを進めてきました。
倍速再生やレジュメとの連動、講義と連動した確認テスト、視聴履歴の自動保存──こうした機能が“視聴のハードル”を下げ、「とりあえず始めてみよう」という一歩を後押ししています。
「通えないから仕方なく」ではなく、「動画のほうが快適で効率的」と考える人も増えているのが現状です。
「独学でもなんとかなる」という意識の広がり
働き方が多様化し、自己研鑽のスタイルにも柔軟性が求められる時代になりました。
リモートワークや副業など、日中のスケジュールが固定されにくくなった今、「空いた時間を有効に使いたい」「自分のペースで学びたい」というニーズが高まっています。
資格講座に通うよりも、動画を中心に独学で進めるほうが、今の生活に合っていると感じる人も多いでしょう。
“王道”のように見えるからこそ、見過ごされやすい
このように、動画学習は現代の資格勉強において非常に理にかなった手段です。
だからこそ、多くの人が無意識のうちに「これで正解」と思い込み、その使い方や効果を見直す機会を持ちにくくなっているのかもしれません。
ですが実は、成果が出にくいと感じる背景には、“動画だからこその弱点”が隠れていることもあるのです。
次のセクションでは、「観ているのに、なぜか覚えていない」と感じてしまう理由を、研究の知見も交えながら掘り下げていきます。
「観ているのに覚えていない…」その理由を探る

動画講義をしっかり視聴しているつもりなのに、知識が定着しない──そんな感覚を覚えたことはありませんか?
「一通り見終えたのに問題が解けない」「あとから思い出そうとしても曖昧なまま」。
そうした違和感の裏には、動画学習が持つ“構造上の弱点”が関係していることがあります。
ここでは、動画学習の理解定着における弱点を、心理学・教育学の視点も交えながら見ていきましょう。
理解した“つもり”になりやすい──「流し見」の罠
動画学習は、情報を受け取りやすい反面、自分で考えたり手を動かしたりしないまま進めてしまうことがあります。
テンポよく進む講義は「わかっているような感覚」を生みやすく、学習者自身も「理解した」と錯覚しやすい傾向があります。
特に倍速視聴や“ながら学習”を多用している場合、その傾向はより強まります。
「観る」ではなく「見る」になってしまっていることが、動画視聴の最大の弱点とも言えそうです。
一方通行の学びでは、記憶に残りにくい
教育心理学の分野では、知識の定着には「再生」と「再構成」が必要だとされています。
つまり、ただ聞いて覚えるのではなく、自分の中で整理し直し、言葉にしてみる・書き出してみるといったプロセスがあってこそ、記憶として定着しやすくなります。
しかし動画視聴だけでは、こうしたアウトプットの機会が意識されにくく、記憶にとどまらないまま終わってしまうことも少なくありません。
反復はできても、“能動的な関与”が不足しがち
動画は、繰り返し視聴や一時停止が簡単にできるという点で、紙のテキストよりも柔軟です。
ただし、便利な分、「もう一度見ればいいや」と思ってしまい、能動的に覚えようとする姿勢が薄れてしまうこともあります。
こうした“消費型”の視聴スタイルは、長期記憶の形成には不利になる場合があります。
動画学習を「使いこなす」には、意識の切り替えが必要
動画そのものが悪いわけではありません。
ただ、動画講義はあくまでも情報提供の手段であって、知識の“習得”や“応用”とは別物です。
「見て終わり」になっていないか、「理解」ではなく「記憶・再現」ができる段階に至っているか──
学習のフェーズを意識的に区切っていくことが、動画学習を本当の意味で“学び”につなげる鍵になります。
成果を出している人が実践している、動画活用の工夫

動画講義で思うように成果が出ない──そんな壁を感じたときにこそ注目したいのが、「活用の仕方」です。
同じ教材を使っていても、伸びる人はどこか違う視点で取り組んでいます。
ここでは、実際に動画をうまく“使い倒している”学習者たちが実践している具体的な工夫を紹介します。
再生速度は「調整」するもの、決め打ちしない
1.5倍速や2倍速といった高速再生は、時間を節約するうえで非常に便利です。
しかし、すべての動画を同じ速度で流すことが最適とは限りません。
たとえば、すでに理解している基礎的な内容は倍速で構いませんが、初見の論点や複雑な説明では、あえて等倍再生に戻すことで理解度が深まることがあります。
速度は「決める」のではなく、「調整するもの」として使うのがポイントです。
観るだけで終わらせない、「手を動かす」ひと工夫
動画をただ受け取るだけでなく、自分の手で記録を残すことで、理解は一段階深まります。
ポイントは、“清書するノート”ではなく“思考の痕跡を残すノート”を作ること。
講師の説明に対して、自分なりの言葉で補足を書いたり、「この部分はあとで問題集と照らし合わせよう」とメモを残したりするだけでも、後から見返したときの記憶の定着の手がかりになります。
動画と演習を「時間的に切り分ける」
視聴→すぐ演習、ではなく「視聴の時間」と「演習の時間」を明確に分けることで、頭の切り替えがしやすくなります。
とくに、視聴直後に解いた問題の正答率が高いからといって、それが“定着した”とは限りません。
一度離れてから演習に取り組み、「どこまで覚えていたか」「何が曖昧だったか」を点検することで、本当の理解度が見えてきます。
集中が必要なテーマは“環境”から整える
ながら視聴は、情報を浴びることはできても、深い理解にはつながりにくいもの。
とくに暗記系・計算系・複雑な論点など、集中力を要する動画は、視聴環境そのものを整えて臨むのが理想的です。
音声だけで済ませず、画面に集中できる時間帯・場所を意識的に確保している人ほど、知識の定着率が高い傾向にあります。
小さな工夫の積み重ねが、“学習の質”を底上げする
教材は同じでも、使い方で得られる成果は大きく変わります。
「なんとなく見る」から、「こういう目的で観る」へ──
そんな意識の切り替えが、学習そのものに手応えを感じられるようになる第一歩です。
「動画だけでは伸びない」と感じたときの選択肢

動画講義を重ねても、いまひとつ実力が伸びている実感が持てない──。
そんなときは、動画そのものをやめるのではなく、“動画だけに頼らない学習環境”を検討するタイミングかもしれません。動画は、あくまで学習の土台。そこに別の刺激や関わり方を加えることで、理解や記憶の定着がぐっと高まることがあります。
仲間とのやり取りが、記憶を揺さぶる“摩擦”になる
独学にありがちなのが、「わかったつもり」に陥ってしまうこと。
その対策として効果的なのが、学習仲間との交流です。たとえば、オンラインの勉強会やSNSでのアウトプット、質問し合える小さなグループなど。
誰かとやり取りすることで、自分の理解の曖昧さに気づけたり、「言葉にする力」が鍛えられたりします。
記憶や思考に“摩擦”が生まれることで、知識がより深く定着していきます。
あえて対面を取り入れることで、緊張感が戻る
資格勉強の多くはオンラインで完結できますが、「あえてリアルの場」を取り入れている人もいます。
たとえば月に1回だけ、模擬試験を受けに行く。
講師のセミナーをリアルで聞いてみる。
そうした場には、良い意味での“緊張感”があり、集中力や記憶の質が一段階高まるきっかけになります。
反転学習の発想で、「動画は準備」に切り替える
動画講義をメインの学習と考えるのではなく、「学習前の準備」として捉える方法もあります。
たとえば、「講義動画→問題集」という順序ではなく、「問題集→わからなかったところを講義動画で確認」といった流れに変えてみる。
こうした“反転”の発想を取り入れることで、動画の情報が「補足」や「解決」の形で頭に残りやすくなります。
組み合わせ方次第で、“伸び悩み”は突破できる
動画だけでは行き詰まりを感じたとしても、それは「学習そのものに向いていない」というサインではありません。
むしろ、次の一手を考えるチャンス。
対話・演習・リアルな場──自分に足りていない刺激を見つけ出し、動画とのバランスを調整することで、もう一段階深い学びへと進むことができます。
あなたの学習スタイルはどっち向き?

「動画学習が合わないのかもしれない」「対面のほうが集中できる気がする」──そんなふうに感じたとき、注目したいのが自分の“学習スタイル”です。
動画そのものの良し悪しではなく、「どんなタイプの学び方が、自分にとって自然か」という視点で見直してみると、勉強の進め方にフィット感が生まれます。
自分のペースで進めたい人に向く「黙々型」
他人にペースを乱されたくない、自分の生活リズムに合わせて進めたい──そんなタイプの人にとって、動画学習は大きな味方です。
好きな時間に集中できる環境を整えられれば、講義内容を繰り返し視聴して理解を深めることができます。
ただし、自主性や継続力が問われるため、目標や進捗管理が曖昧になると「途中でなんとなく止まってしまう」リスクもあります。
人との関わりでモチベーションが上がる「外的刺激型」
一人だと集中が続かない、誰かと一緒に取り組むほうがやる気が出る──そうした人は、動画を“補助的な教材”と捉えるほうが効果的です。
週に一度だけでも勉強会に参加したり、SNSで進捗を共有したりすることで、動画学習も“孤独な作業”から“つながる学び”へと変化します。
強制力が適度に働く環境は、計画倒れを防ぐ支えにもなります。
学習法は「合う/合わない」で判断していい
勉強法に“絶対的な正解”はありません。
大切なのは、自分が続けやすい方法、自分にとって集中できる環境を見つけることです。
動画が合う人もいれば、そうでない人もいる。
それを「自分の努力不足」ではなく、「方法の相性」として捉えることで、学びに対するストレスはぐっと軽くなります。
選ぶべきなのは、“教材”ではなく“使い方”
どんなに評判の良い講座でも、どんなに効率的とされる手法でも、自分に合わなければ続きません。
学習において本当に大事なのは、「何を使うか」よりも「どう使うか」。
その視点を持てるようになると、動画もテキストも、ただの“素材”ではなく、自分の目的に沿って活かせる“道具”になっていきます。
「視聴する」だけで終わらせないための5つのチェックポイント

動画での学習は、手軽さと自由度の高さが魅力です。
しかし、その分「ただ再生しただけ」「何となく見終わってしまった」という状況にも陥りやすいもの。
学びを“受け身の視聴”で終わらせず、成果につなげていくには、自分の取り組みを客観的に見直す視点が欠かせません。
ここでは、今の学習法を点検し、改善につなげるための5つのチェックポイントを紹介します。
✔ 見終わったあとに、必ず何かを書き残しているか
動画を観たあとに「まとめ」や「気づき」を書き留めているか?
たとえ短いメモでも、言葉にすることで理解が整理され、記憶にも残りやすくなります。
その場で手を動かすことで、“わかったつもり”を防ぐ効果もあります。
✔ 繰り返し視聴したい部分に、印や記録を残しているか
「あの説明、もう一回視聴したい」と思ったとき、どこを観れば良いかすぐにわかるか?
タイムスタンプやスクリーンショット、レジュメへの書き込みなど、自分なりの“目印”を残しておくと、復習の効率が一気に高まります。
✔ 自分の言葉で説明できるかどうかを意識しているか
「理解したつもり」を確かめるには、自分の言葉で言い換えてみるのが効果的です。
人に説明するつもりで内容を整理することで、知識が深く定着し、応用力も育ちます。
声に出してみるだけでも、記憶への残り方が変わります。
✔ 問題演習やアウトプットと組み合わせているか
動画を視聴しただけでは、知識が“使える形”になったとは言えません。
学んだ直後に問題を解いたり、ワークに取り組んだりすることで、知識が実際の問いの中でどう使えるかを確かめることができます。
アウトプットを習慣化していくことで、学びの質が一段階上がります。
✔ 「視聴した=やった」と思い込んでいないか
動画を一通り視聴しただけで「勉強した」と思い込んでしまうと、そのあとに必要な復習や定着のプロセスが抜け落ちてしまうことがあります。
“視聴した回数”ではなく、“定着した実感”で学びの進み具合を判断することが大切です。
小さなチェックが、大きな差を生む
学びの成果は、動画そのものよりも「どんな姿勢で向き合ったか」に左右されます。
ほんの少しの意識の切り替えが、記憶の残り方にも、理解の深さにも影響を与えます。
動画を“見るだけ”のツールにとどめず、“学びを深める武器”として使いこなすために、まずはこの5つの問いを、自分自身に投げかけてみてください。
おわりに
動画講義は、いまや資格勉強に欠かせない学習手段のひとつです。
便利で自由度が高く、自分のペースで学べる──それは確かに、大きな強みです。
しかし、成果を左右するのは、どの教材を選ぶかではなく、どんな姿勢で学びに向き合うか。
“再生するだけ”の学習から、“使いこなす”学習へと視点を切り替えることで、今まで感じていた伸び悩みも、少しずつ解きほぐれていくはずです。
まずは、あなたの動画学習に対する「前提」や「習慣」を点検してみてください。
視聴だけで終わらせない工夫は、今日からでも始められます。
その一つひとつが、合格というゴールを確かなものにする、小さな積み重ねになっていくはずです。


