やってみたら大変だった──オンライン秘書のリアルな難しさ

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「未経験でも始められる」「スキルがなくても大丈夫」「自分のペースで働ける」──オンライン秘書という仕事を調べると、こうした言葉によく出会います。入口が広いことは確かで、実際にそれは事実でもあります。ただ、始めてみたら思っていたよりずっと大変だった、なんとなく続けにくかった、という声も、決して少なくありません。

それは、始めた人の意欲や能力の問題ではなく、この仕事が持つ構造的な難しさに起因していることが多いのです。

私はかつて、製薬会社で社長秘書として働いていた時期があります。スケジュール管理から情報収集、社内外の調整業務まで、日々の仕事は多岐にわたりました。司書として情報管理に、学芸員として展示の設計に携わってきた経験もあります。それらを振り返ると、「サポートする仕事の難しさ」には、外から見ているだけでは気づきにくい固有の構造があると感じています。

この記事では、オンライン秘書という仕事の難しさを、できるだけ正直に整理してみたいと思います。「大変だった」という感覚のぼやけた輪郭が、少しはっきりしてくるかもしれません。

目次

難しさには、種類がある

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いざ始めてみてうまくいかなさを感じたとき、多くの人がまず「自分のスキルが足りないのかもしれない」と考えます。それが正しい場合もあります。でも、すべてがスキル不足に起因するわけではありません。

難しさには、少なくとも二種類あります。

一つは、練習や経験を重ねることで越えられるスキル面の難しさです。ツールの習熟、文書の作成スキル、業務の段取り、特定の知識──これらは時間とともに確実に伸ばしていけるものです。もう一つは、この仕事の構造そのものに由来する難しさです。評価されにくさ、境界の曖昧さ、消耗の見えにくさ──こちらは、スキルを磨くだけでは解消されません。

後者を前者と同じものとして捉えてしまうと、努力の方向が的を外れたままになります。頑張っているのになぜか消耗する、という状態が続くとしたら、その難しさがどちらの種類なのかを分けて考えることが重要です。
以降では、この仕事の「構造的な難しさ」に焦点を当てて見ていきます。

オンラインという環境が生む、見えにくい消耗

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オンライン秘書はリモートで働くことが前提です。場所を選ばないという自由は確かな魅力ですが、同時に、対面では自然に補われていた多くのものが失われる環境でもあります。この失われるという部分は最初はあまり意識されません。

じわじわと、時間をかけて消耗してきて、初めてその大切さを実感します。

テキストで伝わる情報には、構造的な限界がある

対面の仕事では、表情・声のトーン・間の取り方が、言葉を自然に補ってくれます。オンライン秘書の仕事では、コミュニケーションのほぼすべてがテキストを介して行われます。この違いは、日々の業務の中で思いのほか大きな消耗を生みます。

社会心理学者のジャスティン・クルーガー(Justin Kruger)らが2005年に発表した研究では、メールなどのテキストによるやり取りにおいて、送り手は自分の意図やトーンが相手に正確に伝わっていると過信しやすいことが示されています。対面では表情や声で補える情報が、テキストには存在しないにもかかわらず、「伝わっているはず」と感じてしまうのです。

「丁寧に書いたつもり」が「冷たく受け取られる」、「簡潔にまとめたつもり」が「雑に見える」──この非対称性は、リモート環境では構造的に発生します。悪意もミスもないのにすれ違いが起きる。そしてその原因が見えにくいぶん、気づかないうちに消耗が蓄積されていきます。テキストで伝えることの難しさは、慣れで一定程度は軽減できますが、「慣れれば完全に解決する」種類のものでもないのです。

「孤独ではない」と「つながっている」は、別のことである

オンライン秘書の紹介記事には「クライアントとのやり取りが頻繁なので孤独感が少ない」と書かれていることがあります。確かに、連絡のやり取りは頻繁に発生します。でも、情報のやり取りが活発なことと、「つながっている感覚」を持てることは、必ずしも同じではありません。

テキストベースのやり取りは、情報の交換としては成立していても、場の雰囲気や関係性の温度を共有しにくい側面があります。チームで働いていると自然に得られる「今日の仕事がどうだったか」という感触が、リモートでは意識的に拾いにいかない限り、なかなか手に入りません。

自分の仕事がきちんと届いているのかを確認し続けることは、じわじわと体力を使います。一人で仕事をすることへの適性とは別の話で、在宅勤務が得意な人であっても、この種の「見えにくさ」から来る消耗は起こりえます。

サポートする仕事固有の難しさ

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サポートの仕事には、職種を問わず共通する構造的な難しさがあります。オンライン秘書がきついと感じられる理由の多くは、この構造に由来しています。スキルや経験とは別の次元で、この仕事の本質的な難しさとして理解しておく価値があります。

「うまくいった仕事」ほど、見えなくなる

多くの仕事では、成果が形として残ります。完成した商品、決まった契約、増えた数字。でも、サポートの仕事がうまくいったとき、残るのは「何も起きなかった」という状態であることが多いのです。

ダブルブッキングが起きなかった。誤送信を未然に防いだ。クライアントが迷わずに動けた。これらはどれも確かな価値を持つ仕事ですが、うまくいったときほど「透明」になります。問題が起きたときだけが目立ち、防いだことは記録されにくい。

認知心理学の観点から見ると、人間は「存在しない事象」よりも「存在する事象」に注意を向けやすいという性質を持っています。問題やエラーが発生したときに注意が強く向くように設計されているため、「起きなかったこと」の価値は、本来の価値より低く評価されやすいのです。サポートの仕事が持つこの構造的な見えにくさは、外からの評価だけでなく、自己評価の難しさにも直結します。「自分は役に立っているのだろうか」というモヤモヤが消えにくいのは、この仕事の性質から来ている場合があります。

境界が曖昧になりやすい

サポートの仕事では、「どこまでやるべきか」の境界が最初から明確に引かれないことがあります。「できる範囲でやってもらえれば」という言葉は親切に聞こえますが、裏を返せば「どこまでやるかは、あなたが判断してください」という意味でもあります。

善意から少し多めに動いていると、それがいつの間にか「当たり前の水準」になる。期待値が静かに上がっていく。この構造は、長く関わるほど気づきにくくなるため、気づいたときには相当消耗している、ということが起こりえます。

特定のクライアントが悪意を持っているという話ではありません。サポートという仕事の性質上、境界は意識的に設計しなければ、自然と曖昧になる方向へ流れやすいのです。「どこまでやるか」を最初から言語化しておくことが、長く続けるためには思いのほか重要になります。

評価が「信頼の蓄積」という形でしか現れにくい

成果が数字として明示される仕事では、評価の手触りが比較的わかりやすいものです。でも、サポートの仕事における評価は、「また頼みたい」「この人に任せたい」という信頼の蓄積として現れることが多く、短期間では感触を得にくい性質を持っています。

始めたばかりの時期は特に、「この仕事は自分に合っているのだろうか」という感覚と向き合い続けることになります。その感覚を持ちながらも動き続けることが、信頼が積み上がるまでの間、この仕事の難しさの一つです。信頼は積み重なるまでに時間がかかるものですが、そのことを知っていると、待ち方が少し変わります。

社長秘書として経験した、想定外のきつさ


私が製薬会社で社長秘書として働いていた期間、「秘書という仕事はこんなにも判断の連続なのか」と感じた経験が何度もありました。スケジュール管理・連絡調整・情報収集・会議の準備と議事録作成、各部署と経営の間を取り持つ調整業務まで、内容は日によって、状況によって、まったく異なる形をしていました。
「秘書」という肩書きは同じでも、毎日の仕事は「一つの職種」と呼びにくいほど、幅の広いものでした。事前に想定していた「秘書の仕事」と、実際の仕事の間には、十分すぎるほどの距離がありました。

「指示の言葉」ではなく「指示の文脈」を受け取ること

秘書業務で最も難しかったのは、実は特定のスキルではありませんでした。「指示の背後にある文脈を受け取ること」の難しさです。

たとえば、「この会議の資料を用意しておいて」という指示があったとします。表面だけ受け取れば「資料を作る」という作業です。でも、その会議が誰に向けたものか、どのくらいの時間で説明するのか、その場でどんな判断が下されるのか、参加者の事前知識はどの程度なのかを把握しているかどうかで、作るものの中身が根本から変わります。

同じ言葉の指示でも、文脈を知っている人が作った資料と、文脈を知らない人が作った資料は、まったく別のものになります。これはスキルの差というより、指示の受け取り方の差です。そしてこの差は、初めて一緒に働く相手との間では特に広がりやすいものです。

「文脈を受け取る力」は、意識して繰り返すことで育てていくものです。だからこそ、始めたばかりの時期に「なんとなく的外れな仕事をしてしまった」という経験は、多くの人に起こりうることです。そのことを、一つの情報として受け取れると、次の動き方が変わってきます。

「動く」か「確認する」かの判断が、常につきまとう

もう一つ、社長秘書として痛感したのは「動くタイミングの難しさ」です。

急に予定が変更になったとき、「変更しました」と連絡するだけでなく、「変更によって影響を受ける別の予定はないか」「関係者への連絡は必要か」「その変更が引き起こす二次的な調整はあるか」まで一緒に動けるかどうか。こうした判断を、連絡が来るたびに繰り返します。

でも一方で、「勝手に動きすぎること」も問題になります。確認が必要な場面で先走ってしまったり、クライアントが自分で判断したかったことを先に処理してしまったりすることも起こりえます。「動くべきか、確認すべきか」という判断は、業務の種類を問わず、秘書業務の中で常につきまとうものでした。

この判断基準は、クライアントとの関係性を積み重ねることで少しずつ精度が上がっていくものです。最初からうまく判断できる人はほとんどいません。ただ、この難しさが存在すること自体を、あらかじめ知っておくことには意味があるのではないかなと思います。「判断を間違えた」という経験も、次の判断を育てる材料になるからです。

収入の現実が、想定と食い違うことがある


難しさとして見落とされやすいのが、収入にまつわるリアルです。

オンライン秘書の時給は、1,000円前後からのスタートが一般的とされています。副業として月に数万円を得ることは現実的な目標ですが、本業並みの収入を目指す場合には、一定の時間と実績の積み上げが必要になります。

ここで起きやすいのは、「自分のペースで働ける」という魅力と、「収入を安定させるには継続案件が必要」という現実の間にあるギャップです。継続して仕事を依頼してもらえる関係を築くには、信頼の蓄積が必要です。信頼は時間をかけて積み上げるものですが、その積み上げの期間中、収入は不安定になりやすいです。クラウドソーシングで単発案件をこなしながら、並行して継続契約を模索するという動き方が現実的ではありますが、そのバランスをとること自体が、エネルギーを使います。

また、経理補助・SNS運用・ライティングといった専門的なスキルを持っている人ほど単価が上がりやすい一方で、スキルを育てながら仕事を続けるためには一定の余裕が必要です。
「始めやすい」仕事であることと、「収入を安定させやすい」仕事であることは、同じではない。この違いを最初から知っておくかどうかで、中期的な見通しの立て方がかなり変わります。

難しさを知ったうえで、それでも選ぶということ

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ここまで、オンライン秘書という仕事の難しさをいくつかの角度から見てきました。読んでいて「やはり大変そうだ」と感じた方もいるかもしれません。

ただ、一つ付け加えておきたいことがあります。

こうした難しさを事前に知っていた人と、知らずに始めた人では、同じ場面に出会ったときの受け取り方が変わります。「これは自分の能力の問題だ」と受け取るか、「これはこの仕事が持つ構造の問題だ」と受け取るかで、消耗の仕方も、次の行動の選び方も、変わってくるからです。

長くオンライン秘書を続けている人たちは、難しさから目を背けたまま続けているわけではなく、難しさを理解したうえで、それでも続けることを選んでいる場合が多いのではないかと思います。その違いは、仕事の質にも、自分の状態にも、じわじわと影響してきます。

「やってみたら大変だった」という感覚は、正直な感覚です。その感覚を手がかりに、何が難しかったのかを少し整理してみること。難しさの種類を知ることは、撤退の準備ではなく、地図を持って動き直すことに近いものです。


現に、私もオンライン秘書として細々とお仕事を受けているのですが、マニュアルはもちろんないために、「(行動や成果物や接し方などなど)どれが正解なの?」と日々ドキドキしながらやっております。
社長秘書での経験は転用できるとは言っても、やはり、ある程度は相手の表情や声のトーンなどを見て判断していた部分もあるため、いざオンラインで文字でのやり取りが主流となると、また違った難しさはすごく実感しております。

あとは、クライアントによっては、仕事の依頼に慣れている方もいれば、全く初めて依頼されるという方もいます。何を頼みたいのかがわからないけど、お願いしたいといった漠然とした依頼もあったりします。そうすると、こちらで噛み砕いて、状況を整理して提案をするという場面も多いです。
思うに、オンライン秘書というのはサポートであると同時に、二人三脚のような形でクライアントにとっての仕事のやりやすさを一緒に作り上げていく感覚なのかなとも。

私が思うオンライン秘書の一番良いところですが。
他でもない、“ 私自身 ” に面と向かって「ありがとう」を言って貰えるところは、組織で働いていた頃には味わえなかったものでした。

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