ブログのジャンルが決まらないのは、なぜか――「選べない」を心理学から読み解く

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副業としてブログを始めてみようと思い立ち、少し調べてみる。
どこを見ても「まずジャンルを決めることが重要」と書いてある。
なるほど⋯ジャンルか、と思って考え始める。
転職、美容、投資、節約、料理、資格、旅行、ガジェット、子育て……候補はいくつも浮かぶ。
でも、どれにしようかと考えているうちに時間だけが過ぎていく。

「もう少し情報を集めてから決めよう」と思いながら、気づけば数週間、あるいは数ヶ月が経っていた――そういう経験をしたことのある人は、決して少なくないはずです。

これはまさしく、『ブログを始めようとした人が、最初に直面する壁』と言ってもいいのではないでしょうか。

私もブログを始めたときに躓いたこのテーマ。
今ならわかる、その背景。

冒頭から余談で恐縮なのですが、私がかつて司書として働いていたときのことを思い出したんです。
窓口に来られるときに「何かを調べたいのだけれど、何を調べればいいかわからない」という状態の人が思いのほか多かったことを。その時の記憶から、情報が豊富にある環境ほど、選べなくなるのはなぜなのだろう?と、ふと思ったんです。

ブログのジャンル選びで足踏みしている状態は、その現象と構造的によく似ている気がするなと。

調べてみると、これは「優柔不断」や「準備不足」といった問題ではなく、選択肢が豊富な環境に人間が置かれたときに起きる、ごく自然な反応でした。
そんなわけで、この記事では、「ブログのジャンルがなかなか決まらない」という状態を、心理学や認知科学の視点で読み解いていきたいと思います。

目次

「ジャンルを決める」という行為の中身を分解してみる


「ジャンルを決める」という作業は一見シンプルに見えますが、実際には互いに矛盾しうる複数の条件を同時に満たそうとする、かなり複雑な思考プロセスです。なぜこれほど時間がかかるのかは、その内側を少し丁寧に見ていくと輪郭を帯びてきます。

選択は「比較」の連続である

ジャンルを選ぶとき、人は頭の中で候補を並べて比較しています。
AとBを比べ、AとCを比べ、BとCを比べる。候補が3つであれば比較のパターンは3通りで済みますが、候補が10個になると比較パターンは45通りになります。候補が20個になると、その数は190通りです。

さらに「稼げるか」「続けられるか」「競合が強すぎないか」「自分に経験があるか」という複数の評価軸を掛け合わせると、頭の中で処理しなければならない情報量は膨大なものになります。これだけの情報を整理しながら「最適解」を導こうとすることの難しさは、やってみると実感できるはずです。

「正解」が存在しないことの難しさ

数学の問題には答えがあります。しかしブログのジャンル選びに、絶対的な正解はありません。同じジャンルを選んでも、続けて成果を出す人もいれば、途中で方向を変える人もいる。何が正解かは、始めてみないとわからない部分が大きいわけです。

正解のない選択を前にしたとき、人は判断の根拠を見つけにくくなります。「これが正しい」と言い切れる根拠がないまま決断しなければならない状況では、「もう少し情報を集めてから」と先送りしやすくなるのは自然な心理です。
この構造を知っておくだけで、なかなか決められない状況への見方が変わってくるのではないでしょうか。

選択肢が多いほど、人は選べなくなる


心理学者バリー・シュワルツは、著書『The Paradox of Choice(選択のパラドックス)』(2004年)の中で、選択肢が増えるほど人の満足度と決断力が低下するという現象を論じています。これは直感に反するように聞こえますが、多くの実験で繰り返し確認されている現象です。

選択肢は多いほどよい、というのは一般的な感覚です。自分に合ったものが見つかる確率が上がるからです。ところが実際には、選択肢が増えると「最良の選択をしなければ」というプレッシャーが高まり、決断そのものが難しくなります。さらに、何かを選んだ後も「あの選択肢の方がよかったかもしれない」という後悔が生じやすくなる。これが選択のパラドックスです。

スーパーマーケットのジャム実験

この現象を示す有名な実験があります。コロンビア大学のシーナ・アイエンガーとマーク・レッパーが2000年に発表した研究で、「ジャム実験」と呼ばれています。スーパーマーケットで試食コーナーを設け、6種類のジャムを並べた日と24種類のジャムを並べた日とで、その後の購買率を比較しました。

結果は明確でした。6種類の日は試食した人の約30%が実際に購入したのに対し、24種類の日の購入率はわずか約3%にとどまりました。選択肢が豊富なほど「選ぶこと」そのものに疲れ、「決める」という行動が抑制されてしまう。

ブログのジャンルはジャムの比ではなく、理論上は無数に存在します。それだけに「決まらない」状態に陥りやすいのは、心理学的に見れば当然のことと言えます。

情報を集めるほど、判断がかえって難しくなることがある

「ブログ ジャンル 選び方」と検索すると、大量の記事が出てきます。稼げるジャンルのリスト、向いている人の特徴、競合の調べ方……情報を集めれば集めるほど判断しやすくなるはずですが、実際には逆のことが起きやすい。

認知心理学では、処理できる以上の情報が与えられることで判断の質が落ちる現象を「情報過負荷(information overload)」と呼びます。未来学者アルヴィン・トフラーが1970年の著書『未来の衝撃』の中でこの概念を提唱し、その後の認知心理学研究でも繰り返し実証されてきました。

「もう少し調べてから決めよう」と思い、情報を集め続けるほど決断から遠ざかっていくとすれば、それはこの情報過負荷が起きているからです。調べること自体が問題なのではなく、情報を集め続けることが「判断を先送りする行為」と同義になってしまっているとき、この現象が起きやすくなります。

「最初の選択」に過剰な重みを感じてしまう理由


ブログのジャンル選びが難しく感じられる背景には、もうひとつ心理的なメカニズムがあります。
「最初に選んだジャンルが全てを決める」「一度決めたら変えられない」という感覚です。この前提があると、選ぶこと自体への心理的なハードルが必要以上に高くなります。

まだ始まっていないのに「失敗のコスト」を先に計算してしまう

行動経済学に「埋没費用(サンクコスト)」という概念があります。既に費やした時間やお金は、将来の意思決定において本来は考慮すべきではありません。しかし人は「もったいない」という感覚から、意思決定に埋没費用を引きずり込んでしまう傾向があります。

興味深いのは、ブログのジャンル選びの段階では、まだ何も費やしていないにもかかわらず、「もしジャンルを途中で変えることになったら、それまでに書いた記事が無駄になる」という将来の埋没費用を先取りして恐れる傾向があることです。まだ始まってもいないのに、「方向転換したときのコスト」を損失として既に感じてしまっているわけです。

この心理は「コンコルド効果」とも関係しています。コンコルドとは英仏が共同開発した超音速旅客機で、開発途中で採算が取れないことが明らかになっても「ここまで投資したのだから」という理由で開発を続けた、歴史的な意思決定の失敗例として知られています。人は「これまでの投資を無駄にしたくない」という心理から、合理的でない選択を続けることがあるのです。

ブログのジャンル選びの文脈では、「間違えたジャンルを選んだら、その後の努力が全て水の泡になる」という思考がこれに近い構造を持っています。実際にはジャンルを途中で変えることも、複数のテーマを試してみることも可能ですが、「最初の選択」に必要以上の意味を持たせているために、身動きが取りにくくなってしまうのです。

「一度決めたら変えられない」という思い込みの正体

「最初のジャンル選びを間違えたら取り返しがつかない」という感覚は、どこから来るのでしょうか。心理学者ダニエル・カーネマンらの研究で広く知られる「損失回避(loss aversion)」がひとつの説明になります。人は同じ大きさの利益を得る喜びよりも、損失を被る痛みを約2倍強く感じるとされています。

ブログのジャンル選びに置き換えると、「正しいジャンルを選んで成功する」という利益よりも、「間違ったジャンルを選んで失敗する」という損失の方が心理的に大きく感じられる。だから慎重になりすぎる。しかし実際には、ジャンルは後から変えることも、複数を試すことも可能です。最初の選択が持つ実際のコストよりも、頭の中で想定している損失の方がはるかに大きくなっているとき、この損失回避が意思決定の足を引っ張ってしまいます。

考えれば考えるほど、判断が難しくなっていく


「もう少し考えてから決めよう」と思い続けることには、もうひとつ落とし穴があります。人間の意思決定能力は、使えば使うほど一時的に低下するという性質を持っているからです。

決定疲れという現象

心理学者ロイ・バウマイスターらが1998年に発表した研究で提唱された「自我消耗(ego depletion)」の概念では、意思決定や自己制御を繰り返すと、その能力が一時的に低下することが示されています。多くの選択を連続して行った後は、より重要な判断においても質が落ちやすくなる。これが「決定疲れ」です。

ジャンル選びのために毎日のように情報を集め、比較を繰り返していると、判断に使う認知リソースが少しずつ消費されていきます。その結果、「もうどれでもいい」「やっぱり無理かもしれない」という感覚に陥りやすくなります。
じっくり時間をかけて考えたはずなのに、かえって答えが出にくくなるのは、このメカニズムが関係しています。

「最良の選択」を目指すほど、選択が遠ざかる

バリー・シュワルツは人を「マキシマイザー(利用可能な中で最良のものを選ぼうとする人)」と「サティスファイサー(満足できる基準を持ち、それを満たすものを選ぶ人)」に分類しています。マキシマイザーは最良の選択を求めて広範囲を探索し続けますが、選択後の満足度は低く、後悔しやすい傾向があります。
一方のサティスファイサーは「これでよい」と判断できる基準を自分の中に持っており、意思決定が速く、選択後の後悔も少ない。これは完璧主義と完了主義にも通ずる気がします。

ブログのジャンル選びにおいても、「絶対に失敗しないジャンル」「誰がどう見ても正しい選択」を探そうとするほど、選択は遠ざかります。そのような選択肢は、もともと存在しないからです。
完璧なジャンルを探す作業は、論理的には終わりのない作業になってしまいます。

司書として、多くの「選べない」状態に向き合ってきた経験から


冒頭でも少し触れていましたが、私は司書として働いていた時期があります。窓口には、「何かについて調べたいのだけれど、どこから手をつければいいかわからない」という状態で来る利用者の方が、意外にも多かったのです。

調べたいことは頭の中にある。でも、膨大な資料の中からどこを入口にすればいいかわからない。
そういうとき、人は立ち止まります。情報が少なければ「とりあえずここから」と動き出せるのに、情報が多すぎると最初の一手がかえって見えなくなる。

この経験の中で気付いたのは、立ち止まっている人に必要なのは「正解を教えること」ではないということでした。「あなたが知りたいのは、どういうことですか」と一緒に掘り下げていくと、その人自身の言葉で答えが出てくることの方が多かったです。情報を外から与えるのではなく、その人の内側にすでにある方向性を引き出す関わり方の方が、結果として機能することが多かったのです。

司書の仕事は、情報と人をつなぐ仕事です。しかしその実態は、情報を提供することよりも、その人が「何を知りたいのか」を一緒に言語化するプロセスに多くの時間を使います。利用者自身も、カウンターに来た時点では自分が何を求めているのかを完全には言葉にできていないことが多い。
「ブログのジャンルが決まらない」という状態も、これと構造的に似ていると私は思ったのです。外にある情報をいくら集めても答えが出ないとき、それはまだ「自分が何を伝えたいのか」が自分の中で言語化されていないサインであることが多いのではないかと。

その言語化は、情報収集ではなく、自分自身を掘り下げることでしか進まないのです。

「決まらない」状態を、少し別の角度から見てみると


ここまで見てきたように、ブログのジャンルがなかなか決まらない状態には、心理学や認知科学できちんとした説明がつきます。選択肢が多すぎること、完璧な選択を求めてしまうこと、情報を集め続けることで判断が難しくなっていくこと、判断を繰り返すうちに認知リソースが消耗されること。これらは人間の認知の仕組みとして自然に起きることであり、個人の性格や能力の問題ではありませんでした。

もうひとつ付け加えると、「決まらない」という状態は、何も考えていないのではなく、真剣に向き合っているからこそ起きているとも言えます。適当に決めてしまえば、迷う時間はかかりません。それだけ丁寧に考えているということです。

そのうえで、参考として伝えておきたいことがいくつかあります。

まず、「最初のジャンル選びは後から変えられる」という事実です。実際に多くのブロガーが、運営する中でジャンルを絞ったり、方向を修正したりしています。最初の選択が全てを決めるわけではありません。

次に、「情報を集める時間に上限を設ける」という考え方です。決定疲れや情報過負荷の観点から言えば、「〇日間調べたら決める」と期限を先に決めてしまう方が、長期間迷い続けるよりも結果的に質の高い判断につながることがあります。

そして、もし「どのジャンルが自分に合っているかわからない」という状態が続いているなら、外側に答えを探しすぎているサインかもしれません。
「3年前の自分が知りたかったこと」「職場や日常で何度も同じことを説明していること」「気づいたら調べていること」――そのあたりに、自分にとってのジャンルの手がかりが眠っていることが多いように思います。

ブログを始めるかどうか、どのジャンルにするかは、最終的にはあなた自身が決めることになります。ただ、「なかなか決まらない」という状態が、心理学的に見てごく自然なことだと知っておくことで、その足踏みで発生するモヤモヤを少し軽くしてくれるかもしれません。

きっと大丈夫。
答えが出ないまま考え続けてきたその時間は、きっと誰かの背中を押す記事の、最初の一行になります。

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