「年金制度はもう崩壊しているのでは?」「自分たちは将来、本当に年金をもらえるのだろうか?」——そんな声を耳にし、不安を感じている方は少なくありません。
年金制度は一見すると複雑で、将来についてもさまざまな議論が飛び交っています。しかし、その仕組みや現状を正しく理解することで、不安はぐっと小さくなります。
年金制度は、私たち日本国民の暮らしを支える重要な社会保障制度です。これは、公的年金である国民年金と厚生年金を土台とし、その上に私的年金を組み合わせた「3階建て」の構造になっており、将来の生活を支えるための柱とも言える存在です。
この記事では、日本の年金制度の基本的な仕組みとその役割、そして2025年6月13日に可決された最新の年金改正法についても、分かりやすく整理してお伝えします。
年金は、あなたの人生設計を考えるうえで欠かせないテーマです。読み終えるころには、年金に対するモヤモヤが晴れ、将来に向けて前向きな一歩を踏み出せるはずです。
年金の「基本のき」──不安を感じるあなたにこそ知ってほしい制度のしくみ

「年金って、そもそもどういう制度?」「自分の世代はちゃんと受け取れるの?」
そんな疑問や不安を抱く方は少なくありません。将来が見えにくい時代だからこそ、まずは年金制度の基本を正しく知ることが大切です。
ここでは、年金制度がなぜ必要なのか、その根本にある考え方や役割、そして制度の全体像をわかりやすく整理してご紹介します。不安の正体を知ることで、きっと気持ちが少し軽くなるはずです。
年金制度の目的は「リスクへの備え」と「支え合い」
「自分が払った分が将来戻ってくる」──年金をそんなふうに理解している方もいるかもしれません。
しかし実際の年金制度は、もっと大きな社会的役割を担っています。
その根本にあるのは、「人生のリスクに、社会全体で備える」という考え方です。退職後の生活資金だけでなく、病気や障がい、または一家の大黒柱を失ったときにも、年金は経済的なセーフティネットとなります。
この仕組みを支えているのが、「世代間の支え合い」。
現役世代が保険料を納め、高齢者や障がい者、遺族となった人々を支えるという、助け合いの仕組みです。個人では対応しきれないリスクを、社会全体で引き受けているのです。
老後だけじゃない。年金制度が果たす3つの役割
年金は単なる老後のための貯蓄ではありません。実は、私たちの暮らしに次のような大切な役割を果たしています。
- 老後資金の柱:仕事を引退した後も、毎月一定の収入があることで生活が安定し、長寿社会を安心して生きる基盤となります。
- 万が一のセーフティネット:障害を負った場合の「障害年金」や、家族が亡くなった際の「遺族年金」など、想定外の事態にも備えられます。
- 経済と社会の安定:高齢者が安心して暮らせることは、社会全体の消費や経済活動の安定にもつながっています。
年金制度は3つの柱でできている──「3階建て」の構造を解説
日本の年金制度は、「3階建て」の仕組みで構成されています。建物にたとえると、1階が基礎、2階が上乗せ、3階が任意の強化部分。この構造を知ることで、制度の全体像がぐっと理解しやすくなります。
1階:基礎年金(国民年金)
すべての20〜60歳の人が対象。自営業、学生、無職の人も含め、全員が加入する「土台」です。老後の最低限の生活を支える役割を担っています。
2階:厚生年金
主に会社員や公務員が対象。給与に応じて保険料が決まり、収入が高いほど将来の年金も多くなる仕組みです。専業主婦(夫)などの第3号被保険者は、自分で保険料を払わなくても国民年金に加入している扱いになります。
3階:私的年金(企業年金・個人年金)
老後資金をさらに充実させたい人が、自分で選んで積み立てる任意の年金です。
- 企業年金:企業が福利厚生の一環として設ける年金(例:確定給付企業年金・確定拠出年金)
- 個人年金:個人で積み立てるもの(例:iDeCoや民間の個人年金保険)
この3階建ての仕組みを理解し、自分がどこに位置しているかを把握することが、将来に備える第一歩になります。
制度が難しそうに見えるのは、知らない部分が多いから。
年金制度の目的や構造を知ることで、「なんとなく不安…」が少しずつ「こうすればいいんだ!」に変わっていきます。まずは制度の土台を押さえ、自分に必要な備えを考えるところから始めてみましょう。
公的年金のしくみをさらに詳しく──「自分がどう関わっているか」が見えてくる

「自分は国民年金?それとも厚生年金?」「もし病気や事故で働けなくなったら、年金はどうなるの?」
そんな疑問を持つのは、あなただけではありません。公的年金は、働き方や生活環境によって加入の種類や保険料の負担、そして将来受け取る金額が大きく変わる制度です。
このセクションでは、国民年金と厚生年金の具体的なしくみに加え、「万が一の時」に支えとなる遺族年金・障害年金についてもわかりやすく解説していきます。
国民年金(基礎年金)──すべての人の“土台”となる年金
国民年金は、日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が原則として加入する「基礎的な年金」です。ここでは、加入者の区分と保険料、そして将来受け取る年金の考え方について整理します。
《 加入のしくみと対象者 》
国民年金の加入者は、ライフスタイルによって以下の3つのタイプに分けられます。
- 第1号被保険者:自営業者、フリーランス、農業・漁業従事者、学生、無職の人など。保険料は自分で納めます。
- 第2号被保険者:会社員や公務員。厚生年金に加入することで、自動的に国民年金にも加入している扱いになります。保険料は給与から天引き。
- 第3号被保険者:第2号被保険者の扶養に入っている配偶者。保険料の納付は免除されており、将来は国民年金を受け取れます。
《 保険料と納付方法 》
国民年金の保険料は一律で、2025年度は月額17,510円の予定です。納付は、金融機関・コンビニ・口座振替・クレジットカードなど様々な方法が選べます。
《 免除や猶予制度も活用可能 》
経済的に納付が難しいときは、所得状況に応じて保険料の全額または一部の免除や納付猶予を受けることもできます。免除された期間も年金受給資格には加算されますが、将来の年金額には一定の影響が出ることがあります。
《 年金額のめやす 》
満額の老齢基礎年金を受け取るには、40年間(480か月)の保険料納付が必要です。2024年度の満額は年額約79万5,000円。納付期間が短かったり、免除期間がある場合は、その分減額されます。
厚生年金──給与に比例する“上乗せ”年金
会社員や公務員など、多くの人が国民年金と同時に加入しているのが厚生年金です。こちらは「報酬比例」の制度で、現役時代の収入や勤続年数によって将来の年金額が大きく変わります。
《 加入対象者 》
会社や役所などに勤める人が対象で、一定条件を満たせばパートやアルバイトも加入します。
《 保険料の特徴 》
- 報酬比例制:保険料は毎月の給与や賞与に応じて決まります。
- 労使折半:保険料は企業と従業員が半分ずつ負担。給与から自動で天引きされるため、納め忘れの心配はありません。
《 将来の年金額の目安 》
厚生年金の受給額は、「加入期間」と「現役時代の平均年収」によって決まります。国民年金と比べて金額が大きくなる傾向があり、老後の家計にとって重要な柱となります。
万が一の備えも、年金制度が支えます
年金制度は「老後の収入源」としての役割に加えて、現役世代が万が一の事態に直面した際にも、大切な支えとなるしくみがあります。
《 遺族年金 》
大黒柱を失ったご家族を支える年金です。
- 遺族基礎年金:国民年金の加入者が亡くなったときに、子のいる配偶者または子が受け取れます。
- 遺族厚生年金:厚生年金加入者が亡くなったときに支給され、遺族基礎年金に加えて上乗せされます。受給対象には配偶者や子どもに加え、両親・孫・祖父母なども含まれる場合があります。
《 障害年金 》
病気や事故で重い障害を負った場合の経済的支えとなる年金です。
- 障害基礎年金:国民年金に加入していた人が対象。障害の程度(1級・2級)に応じて支給。
- 障害厚生年金:厚生年金に加入していた人が対象で、障害基礎年金に上乗せして支給されます。軽度な障害(3級)でも受給対象になることがあります。
「いざという時」も支えてくれるのが公的年金の力
年金というと「老後」のイメージが強いかもしれませんが、じつは現役時代からしっかり支えてくれる制度でもあります。どんな働き方でも、どんな状況でも、安心できる生活の土台を築く。それが公的年金の本質です。
私的年金を活用しよう!iDeCoと企業年金で、老後にもっと安心を

国民年金や厚生年金といった公的年金は、すべての人の老後生活を支える「土台」となるものです。しかし、「それだけで本当に安心できるの?」と感じる方も多いはず。
とくに、ゆとりある老後を目指すなら、自分自身でもしっかり備えておくことが大切です。
このセクションでは、公的年金にプラスして活用できる「私的年金」──iDeCoや企業年金の仕組みやメリット、始めるうえでの注意点まで、分かりやすく解説していきます。
企業年金:会社が用意してくれる“もうひとつの年金”
企業年金は、会社が従業員のために用意する老後資金の仕組みです。福利厚生の一環として提供されており、働く人にとって心強い制度です。主な種類は次の2つです。
確定給付企業年金(DB)
将来受け取る年金額があらかじめ決まっているタイプです。年金の運用や管理は企業が行い、仮に運用がうまくいかなかった場合でも、企業が不足分を補います。加入者にとっては、将来の見通しが立てやすく安心感があります。
確定拠出年金(DC)
会社が毎月掛金を出し、従業員自身が投資信託などの運用商品を選んで運用するタイプです。運用次第で将来の受け取り額が変わるため、資産形成の主体は本人にあります。最近では、このDC型を導入する企業が増えており、自分の勤務先に制度があるかどうか、確認しておくと良いでしょう。
また、企業型DCに加入している場合、「マッチング拠出(本人も追加で掛金を出せる)」ができたり、iDeCoとの併用が可能になるケースもあります。
iDeCo:個人で積み立てて、税制優遇もしっかり受ける
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、個人が自分で老後資金を積み立てる制度です。毎月掛金を出し、自分で選んだ金融商品で運用していきます。将来のための「じぶん年金」として、国が強力な税制優遇を用意しているのが大きな特徴です。
メリット①:掛金が全額所得控除に
拠出した掛金は、その年の所得から全額差し引かれ、所得税・住民税が軽減されます。たとえば、年収500万円の人が年間24万円(毎月2万円)をiDeCoに積み立てると、数万円の節税になるケースもあります。
メリット②:運用益が非課税
iDeCoの口座で得た運用益には、本来かかる約20%の税金が一切かかりません。利益をすべて再投資できるため、複利効果が最大限に活かされ、資産形成の効率が大きくアップします。
メリット③:受け取り時も税優遇あり
60歳以降に年金として分割で受け取る場合は「公的年金等控除」、一括で受け取る場合は「退職所得控除」が適用され、受け取り時の税負担も抑えられます。
※注意点:原則60歳まで引き出せない
iDeCoの大きな特徴のひとつが「原則として60歳まで引き出せない」点です。万が一、生活が苦しくなっても、よほど厳しい条件(脱退一時金の支給要件)を満たさない限り、途中解約はできません。そのため、生活費や緊急時の資金とは切り分け、無理のない範囲で始めることが大切です。
老後資金の準備は、早く始めるほど時間を味方につけることができます。公的年金だけに頼らず、企業年金やiDeCoといった私的年金も上手に活用して、自分らしいセカンドライフを描いていきましょう。
年金はいつから受け取る?──自分で決める、老後のスタートライン

年金制度には、「何歳から受け取るか」を自分で選べる仕組みがあります。これを「繰上げ受給」や「繰下げ受給」と呼び、原則65歳の受給開始年齢を基準に、早める(60〜64歳)ことも、遅らせる(66〜75歳)ことも可能です。
早く受け取れば、金額は少なくなるが長く受け取れる
たとえば60歳から年金を受け取り始める場合、受給額は最大で24%減額されます。しかし、その分早く生活資金として使うことができるため、「今すぐ必要」「健康に不安がある」などの事情がある人には合理的な選択肢となり得ます。
遅らせれば、受給額は大きくなる
一方で、受け取り開始を遅らせると、年金額は1か月ごとに0.7%ずつ増額され、75歳まで繰り下げた場合は最大84%の増額となります。長く働き続ける予定がある方や、他の資産収入に余裕がある場合には、老後資金を手厚くする方法として有効です。
数字だけでなく、「生き方」を基準に考える
受給開始の選択は、「損か得か」だけで決められるものではありません。「どんな老後を送りたいか」「何に重きを置いて生きたいか」といった価値観が深く関わるテーマです。
・早めに自由な時間を確保したい
・長く社会と関わり続けたい
・なるべく経済的に自立した暮らしを維持したい
──その人の「人生設計」によって、最適な選択肢は変わってきます。
「選べる制度」であること自体が、大きな支えになる
この繰上げ・繰下げの仕組みがあることで、私たちは年金を「一律の制度」ではなく、「自分の人生に合わせて活用できる制度」としてとらえ直すことができます。
自由に選べるという事実は、不安を減らし、未来への備えに“主体性”を持たせてくれるのです。
年金は“あなたの選択”で変わる──未来を見通す視点と、新しい制度のチャンス

これまでのセクションでは、年金制度の基本的なしくみや支え合いの考え方、公的・私的年金の構造について見てきました。制度全体の概要を掴むことができた今、次に必要なのは「自分の場合はどうなるのか」を具体的に考える視点です。
このセクションでは、これまでの働き方や加入歴が将来の年金にどう影響するのか、また、自分に合った受け取り方や備え方をどう選べばよいのかを整理していきます。
「これまでの働き方」が、将来の年金額にどう影響するのか
年金は、ただ決められた年齢になれば自動的にもらえるお金ではありません。
これまでどのように働いてきたか、どんな年金制度にどのくらい加入してきたか──そうした“履歴”が、そのまま将来の受給額に反映される仕組みです。
たとえば、
- 転職を何度も経験している人
- 出産や介護などで仕事を離れていた時期がある人
- 長くパートやアルバイトなど非正規で働いてきた人
こうした働き方の違いは、加入期間や納付額に差を生み、それが年金額にも影響します。
とはいえ、過去の働き方だけで将来のすべてが決まるわけではありません。
年金制度には「これから先の加入実績」で受給額を増やせる仕組みもあります。
今どんな働き方をしていて、どの制度にどのように関わっているのか──
まずは自分の“現在地”を把握することが、これからの備えを考えるための出発点です。
未来を「数字」で見るために
年金は、“わからないまま不安に備える”ものではありません。
日本年金機構の「ねんきんネット」では、自分の納付履歴や受給見込額をオンラインで確認できます。
これまでの加入実績やこれからの働き方に応じて、「自分がどのくらい年金を受け取れそうか」「いつ・どう受け取るのがよいか」などを、現実的に考える手がかりを得ることができます。
また、年金事務所での相談では、より細かな条件をもとにした具体的なアドバイスも受けられます。
不安があるのであれば、迷うより先に「聞いてみる」ことが、もっとも確かな選択です。
年金は、「選べる人生」に対応できる制度へ
これまで見てきたように、日本の年金制度は、働き方や暮らし方の多様化にあわせて、少しずつ柔軟になってきました。
「いつから受け取るか」「どれくらい積み立てるか」「私的年金をどう組み合わせるか」など。
受け取り方も備え方も、かつてより多くの選択肢が与えられています。
大切なのは、年金を「決められた額を受け取るだけの制度」としてではなく、自分の人生設計に合わせて活用できる“仕組み”として理解することです。
将来を不安のまま受け入れるのではなく、自分で選びとっていけるように準備すること。
その選択を支える道具として、年金制度があります。
行動が未来を変える──ねんきんネット、iDeCo、企業年金で「いま始められる備え」を

制度を理解し、自分の人生と重ねて考えるところまで来たら、あとは行動するだけです。
とはいえ、「いきなり何かを始めるのは不安」「制度が多すぎてよくわからない」と感じる方もいるかもしれません。
大丈夫です。ここからは、いまの自分に必要な備えを、“ひとつずつ”見つけるステップを紹介します。
完璧に理解する必要はありません。
未来は、「できることから手をつける」ことで、少しずつ形になっていきます。
1. 自分の年金の全体像を知る──「ねんきんネット」で、未来を見える化する
まず最初の一歩は、「今の自分の年金がどうなっているか」を把握すること。
そのためのもっとも確実な手段が、日本年金機構が提供している「ねんきんネット」です。
ねんきんネットでできること
- 自分の加入履歴や納付状況の確認
- 将来の年金受給額の試算(収入・働き方・受給開始年齢などを反映可能)
- 未納・免除期間があるかどうかの確認
- 受給開始年齢によるシミュレーション
使い方は簡単で、基礎年金番号と本人確認情報があれば登録できます。
制度を“誰かの話”ではなく、“自分の話”に変えるための、いちばんの近道です。
2. 企業年金の有無を確認する──「すでにある備え」に気づくことも大切
会社員として働いている方のなかには、すでに企業年金に加入しているケースも少なくありません。
企業年金は、会社が従業員の老後資金形成を支援する制度で、大きく2種類あります。
- 確定給付企業年金(DB):将来受け取る金額があらかじめ決まっており、運用は企業が行う
- 確定拠出年金(DC):企業が掛金を出し、従業員が自分で運用する(企業型DC)
企業によっては、本人が追加で掛金を出せる「マッチング拠出」や、iDeCoとの併用が可能な場合もあります。
まずは、次のどちらかを試してみましょう。
- 入社時にもらった福利厚生ガイドを見返す
- 人事・総務に「企業年金はありますか?」と尋ねてみる
「知らないうちに、すでに備えが始まっていた」というケースも少なくありません。
3. 自分で備える選択肢──iDeCoという“じぶん年金”
「企業年金がない」「将来に向けてもっと備えておきたい」
そう思ったときに検討したいのが、iDeCo(個人型確定拠出年金)です。
iDeCoは、自分で掛金を出し、自分で運用商品(投資信託・定期預金など)を選んで育てていく、“自分だけの年金づくり”の制度です。
iDeCoの主なメリット
- 掛金が全額所得控除になるため、節税効果が高い
- 運用益に税金がかからない(非課税)
- 将来の受け取り時も税制優遇あり(公的年金等控除など)
ただし、原則60歳まで引き出せないという制約があるため、生活資金や緊急資金とは切り分けて考えることが大切です。
「長期で育てる資産形成」として、無理のない範囲で始めてみましょう。
4. 「完璧に準備しようとしない」ことが、実は最大の準備
年金制度を理解し、選択肢を知るほどに、「結局、自分はどこまで備えれば安心なのか」と迷うこともあるかもしれません。
でも、すべてを網羅する必要はありません。
大切なのは、行動を止めないこと。そして、できるところから始めることです。
- ねんきんネットに登録して、数字を見るだけでも前進
- 企業年金があるかどうか、会社に聞いてみるだけでも気づきがある
- iDeCoの資料を請求してみるだけでも、自分に合うかの判断材料になる
制度を“完全に理解するまで動けない”のではなく、“動きながら理解していく”くらいのスタンスで、十分未来は変わっていきます。
未来は、できることから育てていける
将来の年金に不安を感じるのは自然なことです。でも、その不安に“形”を与えることができれば、人は動き出せます。
- ねんきんネットで、数字を“自分の言葉”に変える
- 企業年金の有無を知り、自分の備えを再確認する
- iDeCoという制度で、自分の将来に意思を持つ
できることは、すぐそばにあります。
安心は、いつかやってくるものではなく、「いま、この瞬間からでも始められる」ものです。
年金制度を“使いこなす”という視点──生き方に合わせて備えるということ

ここまで、年金制度の構造や目的、受け取り方の選択肢、具体的な備えの方法まで見てきました。
制度の全体像が掴めてくると、「結局、自分にはどういう備えが必要なのか」という問いが浮かんできます。
年金制度に“正解”はありません。
なぜなら、必要な備えの量もタイミングも、それぞれの生き方・価値観・環境によって変わるからです。
このセクションでは、あなたが自分自身にとっての“最適な年金戦略”を組み立てていくための視点を、あらためて整理します。
公的年金は「生活の土台」──頼れるけれど、委ねすぎない
公的年金(国民年金・厚生年金)は、国が用意する最低限のセーフティネットです。
生涯収入にかかわらず、一定の基準で保障を提供し、すべての人が社会から孤立しないように設計されています。
ですが現実には、それだけで生活に「ゆとり」や「安心」を感じるのは難しい場合もあります。
大事なのは、
- 公的年金は“生活の土台”であり、“完成されたプラン”ではない
- 足りない部分をどう補うかは、自分で設計できる
という視点です。
備えは「ひとつ」でなくていい──複層的に支えるという考え方
公的年金だけに頼らず、複数の制度や手段を組み合わせることが、これからの時代の“スタンダード”です。
たとえば、
支えの種類 | 具体的手段 | 役割 |
---|---|---|
公的年金 | 国民年金・厚生年金 | 最低限の生活保障 |
私的年金 | 企業年金・iDeCo | 老後資金の上乗せ |
自由資産 | NISA・貯蓄・不動産など | ライフスタイルの選択肢を広げる |
社会的資源 | 配偶者・家族・地域支援 | 非金銭的な安心を支える枠組み |
ひとつの手段に過度に依存せず、「組み合わせて支える」発想が、老後の安心を多面的に支えるカギになります。
「どう備えるか」は、「どう生きたいか」によって変わる
年金制度を語るとき、「老後はいくら必要か?」という“数字の問い”に陥りがちです。
しかし、もっと本質的な問いは、
「自分は老後、どうありたいか?」
です。
- 60代以降も働き続けたい人
- 家族と暮らしたい人、ひとりで静かに過ごしたい人
- 旅行や趣味に使いたい人
- 子や孫に資産を残したい人
生き方が違えば、必要な備えも変わります。
“金額”ではなく、“暮らし”から逆算する発想こそが、あなたの年金戦略の軸になります。
判断する力を育てる──制度は変わり続けるからこそ
年金制度は、一度理解すれば終わりではありません。
社会の高齢化、就業構造、経済情勢の変化に合わせて、制度はこれからも少しずつ改正されていくでしょう。
だからこそ必要なのは、
- 正しい情報を見分ける力
- 制度をアップデートして捉え直す柔軟さ
- 自分の状況と照らし合わせて判断する習慣
です。
「一度だけ準備する」のではなく、「暮らしとともに見直す」姿勢を持つことで、年金制度はもっと信頼できる味方になります。
「知って終わり」ではなく、「選べる自分になる」こと
年金制度は、“知ること”で不安が和らぎます。
でも本当に未来を変えるのは、制度を理解した上で、自分の意思で選べるようになることです。
- 公的年金をどう活かすか
- 私的年金をどう組み込むか
- 自分の生活にどのくらいの安心が必要なのか
それを考え、選び、ときに見直しながら暮らしていくこと。
それこそが、年金という制度との“賢い付き合い方”なのだと思います。
変わる制度、変わらない問い──年金改正から見える、“備える力”の試され方

2025年6月、年金制度の見直しを含む改正法が成立しました。
「高齢期の就労支援」や「非正規雇用の保障強化」を掲げたこの改正は、一見すると前向きな変化に見えます。
しかしその背景には、「長く働き続けることが前提になる社会」や、「個人の自己責任の増大」といった静かな制度的転換が進んでいます。
このセクションでは、改正の要点とその意図、そしてメリット・デメリットの両面から、年金制度とどう向き合えばよいのかを見直します。
なぜ今、制度は見直されたのか
背景にあるのは、少子高齢化と財政の持続可能性です。
人口減少で保険料を支払う現役世代は減り、平均寿命の延伸で給付期間は長期化。これにより、年金財政は年々圧迫されています。
政府は過去にも「支給開始年齢の繰り下げ可能範囲の拡大」や「マクロ経済スライド」などで制度維持を試みてきました。今回の改正もまた、“構造的解決”というより、制度を延命させるための現実的な調整策といえるでしょう。
改正のポイント1:在職老齢年金の減額基準が緩和
高齢者が働きながら年金を受け取る「在職老齢年金」では、給与と年金の合計が一定額を超えると年金が減額される仕組みがありました。
今回の改正ではこの減額基準がさらに緩和され、より多くの人が収入と年金の両立を図りやすくなります。
加えて、年1回の反映だった厚生年金の額の見直しが、毎年の「在職定時改定」へと改善され、働いた分が早く反映されやすくなりました。
ただし注意点もあります。
- 減額制度そのものは残存しており、完全に撤廃されたわけではない
- 実際に恩恵を受けるのは高所得層が中心である
- 雇用側が制度を理解しておらず、適切に運用されない場合もある
- 「働かざるを得ない」という背景を前提にした制度設計ではないかという疑念もある
改正のポイント2:短時間労働者も厚生年金に加入しやすく
従来、一定の労働時間や規模の企業でなければ、パート・アルバイトは厚生年金の対象外でした。
今回の改正でこの適用範囲がさらに拡大され、より多くの非正規労働者が将来の年金受給資格を得やすくなっています。
これは「将来への備えが手に届く」社会に向けた一歩といえますが、その裏で生じる現実もあります。
- 扶養の範囲内で働いていた人は、新たな保険料負担が発生する
- 家庭全体として見ると、手取り収入が減る可能性がある
- 雇用主が保険適用を避けるため、労働時間を調整する圧力が高まる懸念もある
- 中小企業にとっては社会保険料負担が重く、経営に影響を及ぼす場合もある
制度は選択肢を増やすが、「得かどうか」は人による
改正の意図は「選べる働き方・老後設計」を支える制度へという方向です。
しかし、その選択肢がすべての人にとって「得」になるわけではありません。
たとえば、
- 現役収入が高く、長く働く意欲がある人には有利に働く
- 一方、扶養に入りたい人や働く時間に制限のある人にとっては不利
- 制度変更のメリット・デメリットが家庭状況や雇用形態によって大きく異なる
「選べる制度」が生まれたように見えても、実際には“選ばされる立場”になっている人も多く存在するのです。
制度が変わっても、「判断の責任」は個人に委ねられる
今回の制度改正は、「自由度が増した」とともに、「自己判断の責任」がより重くなった制度でもあります。
- 制度の情報を知らなければ損をする構造
- 制度は複雑化し、非正規労働者や高齢者にとって判断が困難
- 公的年金だけに依存せず、自助努力(iDeCoやNISA)を前提にした制度設計が進んでいる
この構造は、情報格差=経済格差にもつながる可能性があります。
変化の時代に、「備える力」をどう育てるか
選択肢が増えた今、何を選ぶのかは自分次第です。
しかし、制度の変更はつねに「誰かの利益」と「誰かの負担」を生み出します。
だからこそ、変わり続ける制度に惑わされるのではなく、変わらない問い──“自分はどう生きていきたいか”を持ち続けることが、もっとも確かな備えになるのかもしれません。
これからの安心のために──年金制度と自分自身をつなぎ直す

年金は、“国が決めた制度”であると同時に、“自分の人生設計の中核”でもあります。
不安があるのは当然です。制度は複雑で、未来は不確かです。
でも、その不安にきちんと向き合い、自分の選択肢を確認し、できることから備えていくことは、誰にでもできます。
年金は、あなたの働き方、暮らし方、価値観を反映していく制度です。
それをただ受け取るのではなく、使いこなす視点を持つことで、制度ははじめて“自分の味方”になります。
これからの備えを進めるために──ポイントを振り返る
✔ 制度の基本構造は「3階建て」:公的年金(国民年金+厚生年金)を土台に、私的年金を上乗せ
✔ 年金は「支え合いのしくみ」であり、老後だけでなく障害・遺族保障にも関わっている
✔ 受給開始年齢は自分で選べる:「早く受け取る・遅らせて増やす」の判断は人生設計次第
✔ 2025年改正法で、働く高齢者・非正規労働者の選択肢が広がった
✔ ねんきんネットやiDeCoを使えば、行動に移す準備がすぐに始められる
✔ 正解はひとつではない。「どう生きたいか」から、自分なりの年金戦略を組み立てていく
まずは「どれかひとつ」から始めてみよう
年金のことを完璧に理解してから動く必要はありません。
むしろ、動くことで見えてくることのほうが多いのです。
- ねんきんネットに登録してみる
- 企業年金の有無を会社に確認する
- iDeCoについて調べてみる
- セミナーや公的相談窓口にアクセスしてみる
“今の自分にできる小さな一歩”が、将来の安心につながっていきます。
おわりに──制度の先に、自分の人生を見据える
年金制度に関する情報はときに難しく、ときに不安をかき立てます。
ですが、その中にあるのは、「あなたの人生を支えるための選択肢」です。
制度をただ受け取るのではなく、知り、選び、使いこなしていく。
それは、未来に対して受け身にならないという意思表示でもあります。
安心は、「分かった」と思えたときではなく、「自分の選択で動き出せた」と実感できたときに、すこしずつ生まれていくものです。
あなたの年金の戦略は、今日からでも始められます。




よくある質問(FAQ)
年金制度の目的は何ですか?
年金制度は「現役世代が保険料を出し合い、高齢者や障害者を支える仕組み」であり、老後の生活資金だけでなく、病気や死亡によるリスクにも備える社会保障制度です。“自分のため”であると同時に、“誰かを支える”制度でもあります。
年金の「3階建て」構造とはどのようなものですか?
- 1階:国民年金(基礎年金)──すべての人が加入する
- 2階:厚生年金──主に会社員・公務員が加入する
- 3階:私的年金(企業年金・iDeCoなど)──自分で任意に積み立てる
この3層構造によって、最低限から上乗せまで、自分の選択に応じた老後設計が可能になります。
年金の受給開始年齢は変更できますか?
はい、原則65歳ですが、60歳からの繰り上げ受給(減額)、66〜75歳までの繰り下げ受給(増額)が選択できます。
人生設計や健康状態、他の収入源に合わせて選べる、自由度の高い制度設計になっています。
2025年に可決された改正法で何が変わったのですか?
年金の受け取り方や働き方に関する制度が、いくつか見直されました。主な変更点は次の2つです。
- 在職老齢年金の減額基準が緩和され、高齢者が働きながら年金を受け取りやすくなりました。
→ ただし、制度自体は残っており、収入によっては依然として年金が減るケースもあります。 - 短時間労働者の厚生年金加入対象が拡大され、パートや非正規でも保障を得やすくなりました。
→ 一方で、扶養を外れることで保険料の自己負担が増える人もおり、家計への影響が出ることもあります。
これらの改正により選択肢は増えましたが、「すべての人にとって得になる」制度とは限りません。
自分の働き方や家計状況をふまえて、どんな影響があるのかを見極めることが大切です。。
iDeCoはどんな人に向いていますか?
自分で老後資金を積み立てたい人、節税メリットを受けながら長期で資産形成をしたい人に適しています。
ただし、原則60歳まで引き出せないため、短期的な資金とは切り分けて考える必要があります。
年金制度は将来、本当になくならないのでしょうか?
“制度が消える”という可能性は極めて低く、むしろ現実的には縮小や給付の見直し、加入期間の変更などが行われる可能性があります。
だからこそ、公的制度を土台にしつつ、自分でできる備えを少しずつ重ねる視点が重要になります。